ポルノ&マングース(中学二年生、秋)

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  宮沢さんのものを隠し、壊し、捨てる、という一連の遊びに飽きた明日香とエリたちは、その日、新しい行為に及んだ。それはトイレに入った宮沢さんの頭上へ、バケツの水を思い切りかけるという、小学生のするようないじめだった。    その事件が明るみに出て、職員会議が開かれる事態となった。担任の教師がひねり出した解決策は、ホームルームの時間いっぱいを使って、現在クラスで行われているいじめについて全員で議論をするという、小学生の考えるような方法だった。    担任は20代後半の豚っ鼻の数学教師だった。彼女は今までもいじめに気づいてながら明日香たちに対し軽い注意を促す程度の対処しかしてこなかった。彼女は割り算によって余った数字に関してはあまり省みる必要のないと思っているタイプだった。彼女にとって大事なのは割り切られた数字のみなのだ。    担任は鼻の穴をいつもより二倍ほど大きく膨らませて、三文ドラマのヒロインのような劇的な口調で、「先生は悲しいです。みんなどうしてかわかるよね?はい、どうして?」と言って、教室中を端から端まで、たっぷりと時間をかけて見渡した。視線をそらしきれなかった生徒が、「いじめがなくならないからです」と、か細い声で答えた。 「そうだよね。そうなんだよね。」担任は興奮した、甲高い声で、主犯格二人の方を全く見ないまま続けた。「解決策を見つけるまでは、ホームルームは終われません」  四方八方から落胆のため息が漏れた。 「ハイ、みんな静かに」担任は猿を相手にでもするみたいにパンパンと手を叩いた。「いじめはみんなの責任なんだよ。いじめてる人だけの問題じゃないの。」  教室の机を全員でコの字型に変えた。これで生徒全員が向き合う形になった。しかし誰も意見を言わないので、しびれを切らした担任が端から順に一人ずつ当てていった。「いじめている人がいたら注意する」とか「いじめに対する罰則を作る」とか「互いに監視し合う」というその場しのぎの意見が引き出され、日直の生徒がそれらの意見を余すことなく黒板に書きつけていった。その間、明日香とエリはひどくつまらなさそうに、爪の先をいじくったり、枝毛を探したりしていた。
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