エピローグ(高校三年生、冬)

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エピローグ(高校三年生、冬)

 12月が終わろうとしていた。濁った冬の日差しが、生徒たちの顔に青白い光を投げかけている。教室の空気はどことなくひりついていて、授業中に無駄なおしゃべりをするものは一人もいない。生徒たちの頭の中は、詰め込んだ英単語と数式で溢れ返っている。暗い未来と明るい未来が交互に目の前をちらついて、頭が痛くなったり、お腹を壊したり、血気盛んに奮い立ったり、訳もなく明るく振舞ったりする。誰もが、目の前にある今現在は、すべて未来を一ミリでもよくするために存在するのだと信じて、疑わなかった。    点加はしかし生き生きと目を輝かせて、受験勉強などそっちのけで、新たな自分の仕事に夢中であった。その仕事とは、勝絵の誕生日のプレゼント作りであった。それは瓜子の所有するビデオカメラを借り受けて、学年と教師全員とからビデオメッセージをもらい、それを一本のDVDにまとめてプレゼントしようという大計画であった。点加はその大変感動的な、友人想いの計画を、勝絵に悟られぬように、こっそり水面下で進めていた。  のぞのぞと国子が計画に全面協力してくれていた。二人とも志望大学に全く高望みをしていなかったので、そもそもそんなに勉強を頑張る必要がなく、その分、暇なのだった。点加は彼らに対して、必要以上にへり下った態度で手伝ってもらっていた。それはしかしあくまでこの計画の発案者は自分であり、この計画は自分のものであるということを、二人に対して分からせてやりたいと思う気持ちの、無意識のうちの現れだった。  点加たちは空いた時間を見つけては先生や生徒へカメラを向け続けた。勝絵と一言も話したことのない生徒たちは困惑しながらも、カメラを向けると適当なコメントをくれた。   それは一見すると美しい、自己犠牲的な、輝かしい行為であった。実際、外から見れば点加は、「大事な友人の一人である勝絵を喜ばすため」という動機によって奔走しているようにしか見えなかったし、点加自身もそう信じて疑わなかった。
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