ポルノ&マングース(中学二年生、秋)

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ポルノ&マングース(中学二年生、秋)

  閉め切られた教室には、ムンとする熱気がこもっていた。窓ガラスは結露に湿り、空は一面灰色だった。授業を進める英語の先生が例文を一つ読み上げるたび、大きな胸が意思を持ったようにゆさゆさと揺れた。点加はそればかりが気になって、授業に集中できないでいた。 「おい、テンカよぉ」後ろから野太い声がした。「おい、聞こえてんだろ無視かよオイ」  拳骨で肩を叩かれる。野蛮な殴り方だった。理不尽な痛みに怒りが募る。しかし抵抗したり、文句を言えるような立場ではないので、怒りを飲み込み、噛み砕きながら、ゆっくりと後ろの席へ振り向いた。  大きな瓦のような顔に、糸のように細い、つり上がった目。その体つきは、硬い岩石を思わせる。彼女は名前を今井みどりといった。みどりは点加の、名目上の親友であった。 「なんなんだよ、うるせえな」点加は野蛮な口ぶりで尋ねた。 「生意気な口聞いてんじゃねえ」みどりがげんこつを振り上げたので、点加はさっと頭を抱えた。 「ごめんなさい」 「もう一度」 「ごめんなさい」 「もうしませんは?」 「もうしません」  親友といっても、実際はこのように、殴られ慣れた犬と、アル中の飼い主みたいな関係だった。点加はみどりの命令に逆らうべくもなかった。
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