6月7日(金)21:23 最高気温28.4℃、最低気温23.7℃ 曇りのち雨

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6月7日(金)21:23 最高気温28.4℃、最低気温23.7℃ 曇りのち雨

  「あー……」  風呂場の方から、声がした。リビングの方に聞こえてくるくらい、樹にしてはめずらしく大きな声だった。聞かなかったことにしようかと思ったけれど、結局様子を見に行ってしまう。風呂場のドアはあいたまま。シャツの袖とズボンの裾をまくって、うずくまっている樹の背中が見えた。 「さっき、風呂入ったんだよな」  こちらを向かないまま、樹が言った。 「あ……うん……」 「そのときさ、気づかなかった?」 「え……?」 「いや、気づかなかったなら別にいいんだけど」  樹は床をこすっていたスポンジを洗うと、パン、パン、と大きく腕を振って水を切った。 「よごれてた?」 「ヘリんとこ、赤カビが……わー……って」 「ごめん、全然気にしてなかった」 「いやいいんだ。いいんだけどさ、別に、風呂掃除担当は俺だから」  全然別によくないじゃん。めちゃめちゃいらついてるじゃん。疲れて帰ってきて風呂入ろうと思ったらわー、きったね、あいつ何でそのまま放ってるんだ、って顔に書いてるじゃん。気が利かねえな確かに俺がやることになってっけど、あいつ一日中家にいるくせに、って……  最初の最後まで気づかなかった馬鹿を演じるべきか、それともちょっとは反抗してやるか……後者に七割方傾きかけていたとき、樹が口をひらいた。 「赤カビってさ」 「へっ」 「あるとき突然、ものすごい勢いで繁殖するよな。昨日までは何ともなくても……そんな兆しなんてまるでなかったのに、あるとき突然」
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