だから君はもう僕のもの

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 アーティとは日本文化祭準備のためにここ一ヶ月ほどで急速に親しくなった。いつも穏やかでみんなの意見をよく聞いて的確に指示を出していて、頼れる実行委員長という姿しか知らないから、とてもそんな趣味があるようには見えなかった。 「嘘だと思ってる?」 「本当ならびっくりだし、嘘だとしたらどうしてそんな嘘をわざわざつくんだ?」 「信じなくてもいいけど本当だよ。教えたのは君が彼の餌食になるのは嫌だと思ったから」  そして囁くように打明けた。 「今日仕留めるつもりって、あいつがエグイ仲間に話してたのを聞いたしね。同じ趣味の日本人駐在員とつるんでる」 「……もしかして、帯はわざと?」 「そう、話すきっかけが欲しくて」 「そんなのほかにもあっただろ?」 「こうして二人きりになれるチャンスはそうそうない。僕が一人で出歩くこともあまりないし」  そう言いながら、パチャラはバルコニーの端に俺を引っ張っていく。 「だから、これは賭け。君が気づいて帯を結びなおしてくれたら、僕がさらう」  そう言うと同時に彼は自分の指輪を一つ外して、ぽいっとバルコニーの外に投げた。  それが頭に当たったアーティが顔を上げた瞬間、パチャラが素早く俺を抱き寄せ、今度は噛みつくようなキスをされた。腕を突っ張ってもがいてもパチャラの胸に抱きこまれて外せない。  力強い腕は抵抗を許さず、俺は大きな手で後頭部を固定された。 「んっ、ちょ……、はなせ、っ……」  入りこんだ舌は好き勝手に俺の口内を舐め、密着した下半身は不埒な動きで欲情を誘う。  下から見上げるアーティがどんな顔をしたか知らないが、散々好き勝手をした唇がようやく離れた時、彼の姿は中庭になかった。 「おい、俺は行くなんて言ってない」 「うん。でも実は興味があるだろ?」  パチャラが力の入らなくなった腰を支えた。 「気持ちいいこと、してみたくない?」  くっそ。キスで腰が抜けたなんて初めてだ。  暴れたせいでビールが回ったのか、やけに頬が熱い。酔うほど飲んでいないはずなのに。魅入られたように目の前の男から目線が外せない。 「快楽に弱い君なら、抱かれるセックスも悪くないと思うよ?」  言葉をなくす俺に、パチャラは映画に出てくる王子様のようにさわやかに微笑んだ。
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