だから君はもう僕のもの

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 車で移動した先は、宮殿のような屋敷だった。  使用人たちが迎えに出たが、彼は王様のように手を振って下がらせ、さっさと俺を部屋に連れこんだ。サイズなんて概念が通じないほど広いベッドに押し上げられて、俺は途方に暮れていた。 「洸(こう)、どうしたの?」  さっきから当然のようにファーストネームで呼ばれている。 「何ていうか……」  リムジンの中ではシャンパンを飲みながら、散々キスをされていた。  パチャラが俺を抱くつもりだとわかったけれど、俺は今までその経験がない。何だか流されるままにここまで来てしまったが、ここに来て戸惑いを隠せなくなる。  あまりに広いベッドに所在なく座っていると落ち着かない。 「かわいいな」 「そんなこと、言われたことがない」 「知らないだけだよ。きっと君は気に入る」 「何が?」 「僕に抱かれるのが」  そう断定してパチャラは俺の浴衣をはだけた。器用にするすると帯を解いて、俺の手首に巻きつける。 「おい!」 「大丈夫。痛くないだろ?」  確かにゆるく巻きついているだけで、縛られたわけじゃない。でも心理的には似たようなものだった。 「背中に爪痕、つけられると困るから」  って、何をする気なんだよ?  その時ノックの音がして使用人がワゴンを運び入れて来た。  半裸の俺はベッドの上でぎくりと固まるが、使用人は俺には見向きもせずにワゴンを置いて丁寧に一礼して部屋を出て行った。  ワゴンの上にはスモークサーモンやオードブル、チーズやフルーツを盛った大皿、それからワインの瓶と光をはじくクリスタルのグラス。  パチャラはワインをグラスに注ぎ、いたずらを思いついた子供の顔で俺を見る。 「ほら、口を開けて」  キスとともに白ワインが入って来た。  やけに甘い気がしてくらくらする。さっき飲んだシャンパンもほどよく回って、ふわふわと気分が浮いている。  ゆるい拘束は危機感を呼ばず、さらに酔いを深めたようだ。 「どうして俺を誘ったんだ?」 「君を気に入ったから」 「会ったばかりなのに?」 「僕は君を知ってたよ。君は目立つからね」 「そうなんだ?」  そこまで成績優秀ではないが、外見や性格で得をするようで発表などで選ばれることがわりとある。 「見た目も好みで一生懸命に頑張ってるのがかわいかった。そしたらアーティが狙ってるって聞いて。あいつにめちゃくちゃにされる前に手に入れないとって思ったんだ」  熱っぽく語る彼が本気かどうか、よくわからない。
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