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「ずいぶん酔ってたから、あんまりちゃんと覚えてないけど……」
「そうだろうな。あの夜、僕が寮まで送って行ったんだ。酔った洸がかわいくて、キスしたらすごくかわいいい声を出すから抱いちゃおうかと思ったよ」
「えっ?」
俺はあわてて記憶を探った。
俺、エッチしたの?
「あいにく時間がなくてその時はキスだけだったけど、洸は無防備過ぎるから警告代わりにマーキングしておいたんだ」
「あっ、あれはお前かッ」
朝起きたら体のあちこちにキスマークがあって驚いたのだ。
そんなことは初めてだったし、跡があるわりに誰とも寝たような感じではなかったけど、びっくりしたなんてものじゃなかった。
「それなのに覚えてないなんて、ひどい奴だな」
「勝手にキスしといて何言ってんだ」
「だって君がねだったんだよ。一人で寂しいって」
「はあっ?」
「日本ではゲイなんて言えなくて、童貞のままずっと一人で寂しかったって」
出会ったばかりでそんな話までしたのか。
かーっと体温が上がって、俺はうつむいた。
「覚えてないけど、言ったとしたら俺が抱くつもりで言ったんだって」
小さく反論したけれど、パチャラはさらっと受け流した。
「でも僕が抱いてあげるよって言ったらうんてうなずいたし」
「いやいや、お前の都合のいい作り話だろ?」
「抱く約束にたくさんキスして跡を残したけど? 君も抵抗しなかったよ」
俺は言葉に詰まった。
確かに合意がなければあんなにつけられないだろう。というか、数よりも問題は……。
「君が見えないような場所にもたくさんキスしたのに。それも気づかなかった?」
目線をそらしていても、パチャラがじっと俺を見ているのはわかっていた。じりじりと焦げるような目に羞恥心が炙られた。
あの時、内腿の奥や足のつけ根にもキスマークは散っていた。
そこまでしたなら、あの時に簡単に抱けたはずだ。時間がないなんて言ったけれど、あれだけマーキングする時間があったならセックスだってできたはず、なんて考えたのを見通したみたいにパチャラは言った。
「僕はせっかちなセックスなんてしたくない。時間をかけてゆっくり愛し合いたかったから、機会を待ってたんだ」
学科も学年も違うから履修科目も重ならない。貴族の彼は社交も忙しい。一人の留学生に声を掛ける機会を持つ間もなく、半年間の海外研修留学が入ってしまったという。
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