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「それなのに、僕がちょっと国をあけている間にあんな性悪に引っかかっているなんて」
ひんやりとしたものが口調に混じって、俺はすこし緊張する。
そもそも人の上に立つことに慣れているから、人を圧倒する空気を出すのがうまいのだ。いや、うまいとかではなくたぶん無意識なのだろうが、庶民の俺はそんな雰囲気をまとわれると怯んでしまう。
「それは…、覚えてなかったし」
「……まあいい。過去をあれこれ言うのは見苦しい」
鷹揚に引き下がってくれたのでほっとしたのも束の間、パチャラはにっこり笑うと宣言した。
「じゃあ、明日から君はもう僕のだから。ちゃんとそのつもりで行動するように」
ていうのはつまり、遊び相手を探しちゃいけないってことか?
冗談じゃない。
「え、いやいや。俺はそんな気はないって」
俺の抵抗など歯牙にもかけず、パチャラはその名が意味するダイヤモンドのように強い光をたたえた目で俺を射抜いた。
「へえ? 他の誰かを探すつもり?」
「だから、俺は抱きたいほうなんだって言っただろ」
ふうん、とパチャラは目を細めて揶揄した。
「あんなに可愛くねだったのに?」
俺はあわわわと叫んだ。
「そんなことしてない!」
「奥を擦られるのが好きって抱きついてきたの、かわいかったな」
「酔ってたからだって!」
あーーーーーーっ、昨夜の俺は何してくれてんだ。
「腰振ってもっと突いてって泣いたよな?」
「覚えてないッ!」
「そう? じゃあ思い出すまでしようか。いや、覚えるまでかな?」
力の入らない俺は簡単にベッドに倒されてしまう。
くそっ、腰がふらついて跳ね返せない。
「マジやめろって」
「嫌じゃなかっただろ? 気持ちよかったよな?」
確かにものすごく気持ちよかった。抱く側として落ち込みそうなほど感じた。それは否定できないが、素直にうなずくのも業腹だ。
そっぽを向いた俺にパチャラが耳元でささやく。
「強情な君を堕とすのも楽しいよ」
「誰が堕ちるかっ」
「うん、やる気がみなぎってくるね」
パチャラは涼しい顔でぬけぬけと言い、抑えこまれた俺は唇を噛みしめた。
完
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