だから君はもう僕のもの

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 無事に盆踊りを務め終えた俺は、暑い中庭からホールに入った。櫓の上は風が通って案外涼しかったが、喉が渇いてビールを買った。この国のビールは味が薄くて炭酸も軽めだ。ごくごく水みたいに飲んでしまう。  エアコンの効いた室内ではスーパーボールすくいやヨーヨー釣り、綿菓子やカキ氷などの模擬店が並んでいる。焼きそばやベビーカステラ、ソースせんべいなんかもある。  日系スーパーが進出しているから、日本の食材も手軽に手に入るのだ。  どの店も盛況で、俺はビール片手にぶらぶらと店を見て回った。  懐かしい祭りの風景にここが海外なことを忘れそうになるが、屋台からはスイートチリソースや香草の香りも漂っていて異国の雰囲気もある。  何だか不思議な気分だ。  わたあめで顔中をべたべたにした子供の笑い声や輪投げでおもちゃをもらってはしゃいでいる学生や、子供から大人までたくさんの客がいて祭りを楽しんでいた。  その中で一人、俺の目を引いた人物がいた。  壁際に立っているが小柄な人々の中で頭一つぶん背が高い。すっきりした濃紺の浴衣が男の涼しげな美貌をひき立てていた。日本語学科に置いてある使いまわしの浴衣じゃないことは一目見てわかった。  くっきりした目鼻立ちが男らしくて、嫌みのない上品に整った顔立ちをしている。誰から見ても正統派のイケメンで、華があるタイプの男だった。  きっと俺とは合わないと直感した。  彼のところへ小柄な男子学生が歩み寄った。手に焼きそばやサテの串を持っている。恋人だろうか、親しげな様子で話しかけている。  ふっと口元を緩ませた彼が一瞬、俺のほうを見た。  パチッと音がしそうなほど強い目線で真っ直ぐに俺を見る。  え? 知り合いだっけ?     
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