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成績優秀、品行方正、眉目秀麗。面倒見がよく、老若男女から好かれる神様から全てをもらった俺の幼馴染。
幼少の頃はそんな幼馴染がいることが俺の誇りで自慢だった。けれどいつの頃からかそれは劣等感に変わり、幼馴染という言葉は俺の足枷になっていた。
俺の心情にも気付いていないだろうアイツの態度全てが気に入らなくて、中学に上がるころには意図的に避け、話しかけられても聞こえないふりをした。
常に俺の近くにはアイツの存在があり、それは俺の人生を滅茶苦茶にしていく。ただ幼馴染だけというだけで恐らく俺を気にかけて来るアイツが俺は嫌いで仕方がなかった。
「校門前に他校の女子がいるぞ!」
「どうせ隣のクラスのイケメン君が女子に群がられているだけだろ」
「羨ましいなあ」
「名前何だっけ?」
「桜、桜悠」
放課後特有の喧騒の中、一人机に伏していた俺の耳に入ってくるのはアイツの話題。何百回と聞いた内容に耳を塞いでいたら勢いよく肩を揺すられる。
「なあ、桜とお前って確か幼馴染だったよな。今度合コンのメンバーに誘いたいから声かけてくれよ」
「・・・・・・は?」
何かと思えばアイツ絡みの内容。まともに話したこともないクラスメイト達にすら認識されている俺とあいつの関係性に嫌悪感を抱く。
「あいつが来れば可愛い女の子もいっぱい来るだろ!?」
「バカ、桜が来たらお前何て眼中にない女しか来ねえよ」
「あ、確かに」
「あー、くだらね。帰ろうぜ」
俺の返事何て待たずにあっという間に教室から出ていったあいつらの楽しそうな笑い声が廊下に響いていた。
気付けば教室には俺だけだった。
友達一人まともに作れず、教室の隅でぼんやりと外を眺める俺の姿は誰がどう見たって冴えない男子高校生だろう。
一人で教室にいたところで無意味な妄想に耽るだけで虚しくなる。
帰ろうと椅子から立ち上がれば廊下からバタバタと誰かが走っている音が耳に入り、やがて音がなくなると代わりに俺の教室の扉が開いた。
「ユキ」
「・・・・・・」
「話すのは久々だね」
「・・・・・・」
余程急いできたんだろうか。息を切らしながら俺に話しかけてきたのは先ほどまで話題に上がっていた俺の幼馴染。
額に汗を滲ませながらもどこか爽やかだった。
「元気にしてる?」
「・・・・・・」
黙っている俺に対して、楽しそうに話しかけてくるコイツの考えが俺には読めない。いくら幼馴染だろうがまともに会話もできないやつに話しかけるなんて偽善者気取りなのだろうか。
「あのさ、」
「俺に構うな」
「ユ、キ・・・・・・?」
俺の名を呼ぶコイツの言葉を遮り、俺は今まで抑えていた感情を気付けばぶちまけていた。
「お前、そうやって俺に構っていい気になってんのか?」
「え?」
「一人で惨めな俺を助けて、裏では俺の事馬鹿にしてんだろ!」
「違・・・・・・!」
「違うとは言わせねえ。昔からそうだ・・・・・・俺を助けて優越感に浸ってたんだろう!」
口から溢れる言葉の暴力はコイツの表情から明るさを奪っていく。どうしようもない罪悪感に襲われるが、同時に出てくる怒りが勝って暴力は止まらない。
「俺だって努力してきた!・・・・・・なのに周りはお前のことばかりだ!」
「ユキ・・・・・・」
「何で俺は誰にも認められない!?お前が、お前が隣にいれば・・・・・・俺は存在すらできない・・・・・・」
「・・・・・・」
「俺は・・・・・・オマエが嫌いだ・・・・・・」
言い終わるころには嗚咽交じりで、内容も滅茶苦茶だった。それでもコイツは相変わらず反論もせず俺の言葉を最後まで黙って聞いていた。
「・・・・・・わかっただろ、俺に構うな、関わるな」
「嫌だ」
「・・・・・・は?」
完璧な拒絶の意を示した俺の言葉を全く聞いていなかったと言わんばかりに、涙でぐしゃぐしゃの俺とは真逆の、教室に来たときと同じ爽やかで屈託のない笑みを浮かべていた。
「それがユキの本心?」
「ああそうだ。だから・・・・・・」
俺は一体何をされているんだろうか。徐々に距離を詰められ俺とコイツとの距離はなくなった。
「これが僕の気持ちだよ」
ほんのりと色づく唇がわずかに濡れて、男の俺ですらどきっとしてしまう・・・・・・じゃなくて!!!!
「ハルカ・・・・・・!!!」
「久々にユキの口から僕の名前が聞けて嬉しいよ」
「お前!」
「ん?」
「何やってんだよ!!」
「何って・・・・・・分からないならもう一回やっておく?」
「はあ?!」
「どうしてユキに友達が出来ないか、教えてあげようか」
さわりと頬を撫でられて肌が粟立つ。目の前に立つ幼馴染は先ほどまで俺が知っていた幼馴染とはまるで別人のように感じる。
「まさか先にユキの気持ちが聞けるなんて思いもしなかったよ」
「お前・・・・・・だれ、だ」
「ハルカだよ、ユキの幼馴染でユキが大嫌いで仕方ない桜悠」
「・・・・・・」
「泣いている顔もよかったけど、困惑して怯えている顔もいいね」
「さわ、るな」
「ユキ」
「呼ぶな」
「好きだよ」
「何、言ってんだ・・・・・・」
「ユキの魅力を知っているのは僕だけでいいよね」
今までただの幼馴染だと思っていた男にキスをされ、好きだと言われ困惑しないわけがない。思考も全て固まって、ただコイツの顔を見ていることしかできない俺の気持ちを知ってか知らずか昂然とした表情でこう言った。
「僕だけのモノになって?」
「断る!!」
「そう言うと思ったよ」
虚勢を張って精一杯の力を込めて拒絶しても、それすらもお見通しなのか笑顔を崩すことなく二度目を簡単に奪う。
嫌でも紅潮する頬を隠そうと腕を上げれば、突然屈んで悶えだすものだからいよいよ訳が分からない。
「何がしたいんだよ!」
「どうやって攻略しよう・・・・・・」
隠しきれない赤く染まった耳と小さな呟きに気付かないフリをして、俺は目の前の幼馴染がどうしたら俺を嫌いになってくれるか考えを張り巡らせた。
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