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初めての来客
水揚げの宴が無事に終わり、俺は初めて二日の休みを頂いた。水揚げが終わった者は一度里に帰ることを許されるのだそうだ。なので俺は父への漢方薬や家族の衣を数着、お菓子や食料を袋や風呂敷に包み、背と両手を塞ぎながら里に向かった。里までは半日掛かる。
皆…元気にしているだろうか。
家族に会うのは二年ぶりになる。
弟達は背が伸びたであろう。父は少しでも病が治っているだろうか…母は看病に疲れていないだろうか。様々な思いが過った。
俺が男壇牡丹に入ってからは…給付の半分は実家に仕送りとなっているので、少しでも生活が楽になっているといいと心から思った。
歩き疲れたので、道中…道の端にある小さな茶店に立ち寄る。一杯の茶と蓬の串団子を頼んだ。茶店は旅の道中の者の休憩場所となりとても賑わっていた。
温かい串団子を頬張りながら…ふと仟之助の言葉を思い出す。
〃私は恋人だと思っている〃
何故そのような事を思うのか…
それってもしかして…仟之助は俺を…。
身体がカァッと熱くなる。もう…何をしていても仟之助に抱かれた、あの濃い時間を思い出すのだ。あの強い瞳と甘い指先。乱れていく俺…。しかし…男娼の俺に本気で恋心があるなんて思えない。仟之助は身分が高い上にあれだけの男前だ。もう見合い相手ぐらいはいるだろうし、もしくは将来を約束された結婚相手が決まっているかもしれない。
胸がズキズキと痛む。
〃身体を遊ばれても心は遊ばれてはならない〃いつか言われた清の言葉を思い出した。
仟之助は客だ…
そう思わなければ。
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