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清によって身体を浄められ…俺の髪を優しく椿油で潜らせてくれる。清と風呂なんていつ振りだろうか。水揚げ前に入ったきり…。
久しぶりに穏やかな時が流れた。
それからゆっくりと湯に浸かる。清が背後から俺を抱き寄せ、俺の身体を優しく湯に浸す。清が濡れた俺の髪に触れ
『久しぶりに共に入るな…相変わらず綺麗な髪だ』
『…綺麗ですか』
『ああ、蜜は綺麗だ…全てが』
胸の鼓動が速くなる。そんな事を言われると恥ずかしくて溜まらなくて。
『そ…んな風に言わないで下さい』
俺は湯に顔を埋めそうになりながら静かに云った。清が微笑し
『云ってはダメか』
『はい…』
『何故だ』
『は、ずかしくなるからです』
『へえ』
清の手が髪から俺の腕をゆっくりと指先に掛けてなぞり…往復し始める。
『でも綺麗なものは綺麗だからな』
…綺麗だって云われても。
俺は男だし。どこを見て綺麗なのだろうか。
…綺麗だから
俺を抱いたのか。
…綺麗だから
清が俺の初めての客になったのだろうか。
俺は腕をなぞる清の手に触れ
『…綺麗だから私を抱いたのですか』
と、静かに問う…。
清の手が止まり、俺の腕から手を離してぎゅっと抱き締められた。
『それは…蜜だからだ』
俺のうなじに清の吐息がかかる。
『蜜だから抱いたのだ』
俺から清の顔は見えないが、何となく声に切なさを感じて…それ以上聞けなかった。本当はもっと色々聞きたかったが。
〃蜜だから〃
この台詞は仟之助からも云われた言葉だ。
清と仟之助は何故…同じ事を云うのか。二人は同じ気持ちを共有しているのか。…答えは二人にしかわからない…?
そして…共に湯から上がり、身体を拭い普段着を羽織った。清の手付きが下請けの時よりも優しく感じて胸がじんわりと熱くなる。清が慣れた手付きで帯を結い
『今日の日中は仕事が休みなのだが…少し出掛けないか』
優しく微笑みを浮かべる清。熱くなる胸を抑え、互いに自室にて支度をする。二人で雪駄を履いて…久しぶりに清と出掛ける事になった。
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