牡丹と月陰

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口の中に飴を入れると 初めて食べるべっこうの香りと甘さが口いっぱいに広がって、本当に美味しかった。 いつか、いつか弟達に買ってあげたい。 清が横から俺を見つめて 『美味しい?』 『はい、美味しいです』 『それは良かった』 優しく微笑み、俺の頭にポンと触れた。 …胸が再び高鳴りそうになるのを必死に堪える。清は俺にいろいろな気持ちまでも教えてくれる…。 『俺…あの、私には弟がいるんです』 『そうか』 『はい…だから、その…いつか買ってあげたいって思いました』 『きっと喜ぶよ』 清が優しく微笑み掛けてくれる。 『政が一人前に稼ぐようになったら、実家に仕送りができる。その時に一緒に送ってあげるといい』 …仕送り ができるんだ…。 嬉しくなった。 『はい、そうします』 俺が清に微笑みながら向き合うと 清が俺の顔に驚いたような…少しだけの間が入る。 『…き、よ様…?』 『あ、ごめん。…ここの呉服屋に入ろう』 『?…はい』 俺は清の後に続き、藍色の暖簾を下げている呉服屋に入った。沢山の着物や肌着、袴…洋物の白い上衣、足袋や下駄、見たことのない履き物等が売られている。 『いらっしゃい。ああ、清さん久しゅうございますね』 店の中から、店主のおじさんとおばさんが出て来てにこやかに清に話し掛ける。その後、俺にも視線を向けて 『清さん、下請けの子かい?』 『ああ、そうです』 『清さんが下請けさんと買物なんて珍しいね』 清がクスッと笑い 『確かに』 と、俺を見つめた。 …え、そうなんだ。と 何だか嬉しくて、清に見られるのが恥ずかしくて…うつ向いた。
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