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朝食を終えて中々起きてこない貞成を起こしに寝殿に向かう。朝まで清を抱いていたから…起きれなくて当然だろう。しかし今日も仕事だ。
『おい、貞成…起きろ』
寝ている貞成を揺する。
『ん…清』
清と俺を勘違いして腕を回そうとする貞成の頬をペチペチっと軽く叩いた。
『恋人の顔と親友の顔もわからぬか』
貞成が目を見開き驚いて俺を見つめる。
『抱き足りないなら抱いてやるが』
俺がクスッと笑うと貞成が慌てて起き上がる。
『た、戯けた事を言うな』
『戯けてるのはお前だろ。ほら行くぞ。仕事に遅れる』
背後で清や蜜もクスクス笑っていた。
貞成はしつこく清を抱き締め愛を囁いていたが…俺はゆっくり蜜に向き直り、蜜の指先だけをキュッと握る。そのまま微笑し
『また来る』
と、一言伝えた。
本当は凄く…離れたくなかったけど、後ろ髪引かれる想いで男壇牡丹を後にした。俺に少しでも心開いてほしい。どうすれば蜜との距離を縮められるだろう。
悶々と模索していると
『ああ…清はやはり最高だった』
とぼやく貞成。俺は苦笑し
『かなり盛っていたな。それで今日の仕事もいつもより捗るのでは?』
貞成が笑い
『ああ、清のために頑張る』
清のために?
と思ったがそこは突っ込まないでおく。
熱く決意する貞成と別れて俺は大蔵省関税局へと出社。貞成は主計局へ。西洋館造りになっている局社は様々な部署がある。
俺の兄や姉は父親の澤名勘次郎の側近で働いているが、次男の俺は勉強の為と実家の産業の為に関税局にいる。父親含め代々重役処の秘書だが、それ以外にも産業経営も束ねていた。俺は次男だが、将来的には産業の方を束ねていかなければならない。だからそのための勉強だ。
俺がいる関税局は主に煙草やお酒、海外からの普及といった物の税を管理、経理を司る。沢山の資料や全国から送られてきた報告書を元に、鉛筆で記入する傍ら算盤で細かい所まで計算していく。黙々と仕事に打ち込む中、局室内には皆が算盤を弾く音が響いた。
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