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一銭でも足りなかったり合致出来なければ何度もやり直し、深夜迄の残業が続く程に大変であった。そのまま局社に寝泊まりする事も珍しくない。なので…蜜にまた来ると云いながら数日過ぎ、十日が過ぎる。
ふと、俺を忘れていないか不安に駆られる。
不安に落ちない為にも、蜜を思い出す度に仕事の合間に短い文を何枚も…何枚も綴った。
〃蜜、体調大事ないか。普段何をしてる〃
〃今日も仕事が長く深夜になりそうだ。一目会いたかったが。致仕方がない〃
〃離れていても、あの日に触れた蜜の感覚を忘れられない。何故だろうか〃
〃書いても書いても書き足りない。また会いたい〃
〃昼想夜夢…どんな意味か知ってる〃
そんな他愛も無い事を多々送った。返事なんて来ないかと思ったが。蜜はいつも返事は必ずくれた。
〃澤名様、私は大事無き毎日を過ごしています。普段は舞踊を習っております〃
〃深夜迄お仕事ですか。どうか体調にはご自愛下さい〃
〃私を忘れないで居てくれるなんて嬉しいです…感覚を忘れないとありますが、私も澤名様の温もりを忘れていません〃
〃私もまたお会いしたいです〃
〃昼想夜夢…意味はわかりませんが、次回お会いした時に教えて下さい〃
蜜の…素直に綴られている文が嬉しくて。俺もまた何度も返事する。文のやり取りだけだが…何となくこの前会った時よりも、距離が近付いたのではないかと感じた。
〃今日も夜遅いのですか。疲れた時はゆっくり蓬湯に浸かって下さい。少しでも疲れが癒されますように〃
この日は文と一緒に幾つかの蓬の葉が挟まっていて。…蜜の心温かい遣いに、胸が熱くなる。
毎日文を綴るので和紙が無くなってしまい、俺は休憩中に街の文具屋まで出掛ける事にした。
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