昼想夜夢(仟之助)

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町の問屋が並ぶ道中までは局社から裏通りの民家を抜けてすぐだ。季節は秋分に入ったばかりだが…まだ日中は時折暑い。 民家が立ち並ぶ道中では赤ん坊を背負いながら、暑さを(しの)ぐ為に玄関先で打ち水をしている母親達。そのお陰もあり、道中は少しばかり涼しく感じた。 道の脇では子ども達が暑さも忘れて遊びに更けている。子どもの頃はよく朝露(あさつゆ)の実家を抜け出して…民家の道中まで降りて日が暮れるまで遊んだものだ。缶蹴りやゴム跳び、面子飛ばし。家に居ても習い事ばかりでつまらなかったから。習い事なんて的もに習った事が無い。 民家を抜けると問屋街に入る。文具屋まですぐだ。蜜との文のやり取りは毎日続いているが…もう2ヶ月程会っていない。文の内容からは距離が近付いた様に思うが。実際会うとどうなのだろう。振り出しに戻ったりしないか…色々な憶測を呼んだ。 ふと、西洋の料理屋が目に入る。店内では若い客の男女が仲良く飲み物を飲んでいた。その姿が幸せそうで…。こういった穏やかな時を蜜と過ごしてみたい。いつか…この料理屋に蜜と来よう。沢山話したい事や聞いてみたい事がある。…まだ蜜について何も知らないから。知りたい…もっと。 文具屋に到着し暖簾を潜ると、色彩豊かな用紙や和紙が連なう。大きさも様々だ。筆、墨、色墨等が置いてある通路を通り過ぎると…文の分野に見覚えのある後ろ姿があった。 その後ろ姿に胸が高鳴る… …ずっと会いたいと 気になって仕方がない相手 蜜だったから。
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