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男壇牡丹に向かう道中、問屋に寄りお忍びで行く為の笠帽子を購入した。それから麩菓子や干物、蜜が気に入ったオレンジジュース、お酒も購入し風呂敷に包み背中に背負い…
もう時期に男壇牡丹に到着する。蜜単独で会う事を承諾してくれるだろうか。
男壇の暖簾を潜り、女将と側役の元に近寄り
『お忍びだ。下請けの蜜に会わせてほしい』
『…下請けの蜜ですか。まだ水揚げ前の身ですので手を出さない事、重々約束して下さい』
『わかっている。料金を支払う』
俺は女将に代金を支払い蜜の部屋に向かった。蜜…驚くだろうか。昼間も会ったのに、また会えるとなると胸がざわざわと高鳴る。
ゆっくりと部屋の戸を開けたが…
蜜の姿がない。清の部屋にでもいるのだろうか。窓に掛かっている風鈴を見つめながら、窓の下の西洋硝子の中にある蝋燭に灯りを灯した。するとすぐ後ろで戸が開く音がする。
『何方ですか…』
驚いた様な蜜の声がした。
『驚かせてすまない』
『澤名様…』
俺は蜜の手に触れ
『抱かない条件で蜜と過ごす事を許された』
『さようですか…来るとわかっていればお酒の準備をしていたのですが』
蜜が苦笑を溢す。そんな事を気にする蜜が弄らしくて。そのまま胸に抱き寄せた。
『構わない。今宵は私が持ってきた』
背負っていた風呂敷を台に下ろして、お酒や麩菓子、干物を取り出す。
『後…これは蜜に』
襟元からオレンジジュースを取り出し、蜜に手渡した。
『ありがとうございます…ではお猪口やお皿をご用意致しますね』
蜜が皿や小鉢、お猪口を取り出している間に台の前に座った。蜜は男子だが…何故こんなに可愛いのだろうか。これも恋患いなのか。
『澤名様…どうぞ。今宵はありがとうございます』
蜜がお酌しながら微笑む。俺はお酒を口に含み…じっと見られる事が少しばかり照れ臭くて。飲みながら話を続けた。
『今までは文のやり取りだけで、我慢しようと心掛けていたが…午後に蜜に会って、もっと会いたい気持ちを抑えられなくなった』
熱くなる気持ちを打ち明ける。
『あの…何故、私に会うのを我慢したのですか』
『蜜が私を怖がっていただろう』
俺は苦笑し悪戯っぽく蜜を見つめる。
『私が初めて貞成と共にここに来た時…私もやり過ぎたが。怖がらせてしまったから。だから…誠実な気持ちを表す為に文のやり取りから始めようと思ったのだ』
ああ…駄目だ。
触れたい。少し触れるだけ…
俺は蜜の身体を背後から抱き寄せ
『だから今はもう少し触れても…良いだろう?』
『あ、の…澤名…様』
『抱き寄せただけだろ。まだ触れていない』
『ですが…』
蜜の戸惑いに揺れる瞳を見つめ…
そして耳元に口付け
『今から触れるからな』
囁きながら蜜の襟元に手を差し入れた。
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