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『この下請けの子がもう時期、十五になるんだ…源氏名お披露目に相応しい衣を仕立てて欲しい』
『承知致しました。ささ、こちらへお上がり下さい』
店主はそう言って俺の手を優しく下から添え、畳の上に案内された。清は呉服屋中央にある腰掛けに座り…店主のおばさんが持ってきたお茶と塩昆布を一口食している。
『肌の色が白いですし、此だけの美男様なら…紅色か小豆か…赤紫が似合いそうですね。帯は…白か薄藍なんていかがでしょう』
店主は俺の身体に布地を当て
清に話し掛ける。
清は静かに俺と布地を見つめ
『なら紅にしよう。帯は薄藍で…あとこの下駄も一緒に』
『承知致しました。男壇牡丹様にての領収で宜しいでしょうか?』
『ああ…衣は店宛で。下駄は今私が買う』
『ありがとうございます』
『仕立てはどのぐらい掛かる?』
『五日…あれば仕上がります』
『了解。じゃあ店に。私宛で送ってくれ』
『承知致しました』
そして…俺の着物は決まり
清と共に呉服屋を後にした。
…それにしても、先程清が言っていた
源氏名お披露目って…何だろう。
店主から何度も美男、と言われたが…俺の事…?ではないだろうきっと。生まれてきてこの方、美男だなんて言われた事がない。…なんて憶測していると。清が川沿いの石土手で立ち止まり
『戸々に座って』
言われるがままに座ると、今まで履いていた清の下駄をそっと脱がされ新しい下駄を履かせてくれた。
『丁度良さそうだな。似合ってる。履いていた私の下駄も政に渡すよ』
清がふんわりと笑い、新しい下駄を包んでいた包みに、履いていた下駄を丁寧に包み直して手渡してくれた…。でも、なんだか申し訳なくて困惑してしまう。
『清様…あの、宜しいのでしょうか』
清がクスッと笑い
『履き物は各種持っていた方が良い。受け取って』
俺の指先にそっと触れた。
…嬉しくて。あと恥ずかしくて…顔が赤くなるのを堪えられなかった。
『…ありがとうございます。大事にします』
俺は包みをギュッと握って胸がいっぱいになった。
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