昼想夜夢(仟之助)

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『ああ…中々報告書が終わらない』 『そうか』 そう云いながら貞成が報告書の半数を手に取り、算盤を打ち出した。俺は貞成を見つめ 『手伝ってくれるのか、すまないな』 と苦笑した。貞成がクスッと笑い 『早く終わらせてまた男壇牡丹に行きたいだろう』 『それはお前だろう』 『まあな…』 俺も席に座り直し、算盤を打ち出す。すると…席の上に置いてある本棚の端に伏せていた文に貞成が気がつき 『あ』 『何だこれ?』 『返せ』 俺はほんのりと赤くなりながら、貞成から文を取り上げる。貞成がからかうように笑い 『まさか…恋文か』 『……』 見られたくなかったのに。 仕方がない。 『ああ、そうだ』 俺はため息混じりに認めた。 『へえ…まさか仟之助が恋文なんてねぇ』 にやにやと不適な笑みを浮かべる貞成。 しかし…急に真剣な面持ちになり 『仟之助…本気なのか』 『ああ本気だ』 貞成が俺の目を見据え 『相手の仕事は抱かれる事だが、覚悟はあるのか?』 俺も貞成を真剣に見つめ返し 『云いたい事はわかる。…蜜の仕事をわかっていて好きになったんだ』 『そうか…俺も初めは清に理解を示したが、会えない日が続くと嫉妬で狂いそうになったものだ。あと、他の(やつ)の痕を見つけた時』 …そうか。貞成も清に本気なのだから。 色々思うことはあるだろう。 『でもそれが清の仕事だから…いつか清が男娼を辞めれる年になったら、その時は多額の金額を出して迎えに行くつもりだ』 俺は驚いて貞成を見つめる。 『お前…縁談は』 『破断したよ』 『……』 貞成はいつもそうだ。一見遊んでいるように見えるが、しっかり自分の将来を見ている。…俺も見習わなければ。
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