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それから二人で黙々と仕事をこなして貞成のお陰で半数が終わった。明日一日で残りの目処が着きそうだ。
『ありがとう貞成。助かったよ』
俺は安堵して貞成に礼を伝える。
貞成がクスッと笑い
『礼を云われる程じゃない』
『明日は昼を奢るよ』
『お、いいな。楽しみにしとく』
俺達は帰る支度をし局社を後にした。
今宵は雲一つない満月。もう時期十五夜だ。
帰る道中…貞成が呟く。
『本当は…清との将来が不安になる時がある』
貞成が苦笑し
『清は男であり、清と結婚する事はできぬからな。何よりも…佐汐の名を捨てねばならないかもしれない』
俺は貞成を真剣に見つめる
『貞成…』
『でも良いのだ。悔いはしたくない。…きっと清と一緒にならない方が悔いる。だからとことんまで押しきりたい』
『ああ、俺もだ』
『そうか…俺達、似た様な境遇だな』
貞成が笑い、俺も苦笑した。
確かに、お互いに長男ではないが…男と一緒になる事を許してはくれないだろう。勘当されるかもしれない。名を汚す事になるのかもしれない。
でも…
…でも
貞成の云う通り悔いはしたくない。
将来が不安にはなるが…それ以上に好きな人と共に過ごす人生はきっと幸せな筈だ。貞成と清にも幸せになってもらいたいし。俺も…蜜と幸せになりたい。蜜が…男娼としての人生が始まったら、嫉妬に狂う事もあるかもしれない…。だからそれ以上に、蜜に俺を刻み付け、愛を囁き続けなければ。
しばらくして朝露の自宅にたどり着き、貞成と別れた。明日は貞成に何をご馳走しよう。明日の事を考えながら…自宅の玄関前の仮戸を開き、奥の本館へと歩く。
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