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本館の玄関を開けると
『お帰りなさいませ仟之助様』
二人の護衛が出迎えてくれる。
『ああ』
『夕食はお自室までお持ち致しましょうか』
『ああ、頼む。先に風呂に入る』
『承知致しました』
中庭の水池と広い庭園を月の光が照らす。
家にはいつも俺と護衛の三人だ。
幼い時は母や兄や姉も一緒だったが…今はそれぞれ家庭があるし。母は昔から病がちな実家で介護をしつつ、こっちに帰ってくる。ほとんどの時を姉兄と過ごした。いずれは兄一家がこの家を継ぐが…それまでは俺が家を任されている。
父はいつも仕事か、愛人の家だ。
きっと向こうにも家族がいるに違いない。家や名は大きいが…常にひんやりと冷たかった。大人になった今ではもう慣れてしまったが。
自室に荷物を起き、風呂に向かう。執事が沸かしてくれたばかりの湯に浸かり…ホッと息が漏れた。
蜜は今何をしているだろうか。
…貞成は気付いていないが、清と蜜には師弟関係以上の…情があるのではないか。と、たまに感じる。清の…俺と蜜を見つめる目付きにほんの一瞬敵意を感じたから。
毎日一緒に暮らし、男娼を学ぶのだから無理もないかもしれないが。胸にもやもやと苛立ちが沸き上がる。
…あまり考えない様にしよう。
清は貞成に任せておかなければ。
清を見つめる蜜の安堵の目を思い出して、胸がちりっと痛む。あの安堵の目も、熱い目も…全て俺の物にしたい。恋というのはこんなにも人を貪欲にさせるのだろうか。
俺は貪欲な思いを打ち消す様に身体を洗い、顔を洗った。風呂から上がったら明日投函する、蜜への文を綴ろう。
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