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それからまた…街中を歩く。
『政…お昼にしようか』
そういえば、朝も何も食べていないまま清と出掛けていた。お昼、と聞いた瞬間お腹が空き始める。清と街中の麺処に入った。店内は沢山の人達が連なって、汁に入った細長い麺を食していた。
『今流行りの支那蕎麦だよ』
『支那蕎麦…』
『清の国から来た麺料理だ』
…清の国と聞いても今一ピンと来なかったが、皆が美味しそうに食べていたので…きっと凄く美味しいに決まってる、ような気がした。
清と俺は列に並び順番に支那蕎麦を受け取る。店内は満席だったので、外の腰掛けに座った。
『さ、頂こう』
『はい』
見た目は…深い器にお出汁、黄麺、葱という普通の麺料理だったが…一口麺を啜ると今まで食べた事のないお出汁の味と麺が交わって何とも言えないぐらいに美味しくて。夢中で食べた。
『そんなにお腹空いていたのだね。足りなかったら、私のも食べていいよ』
……清がやんわりと微笑し
俺に自身の器を差し出してきた。
『い、え…私はこの一杯で』
『いいから食べなさい。少し太らないと』
一瞬…清の表情が、昨晩見たような男の顔つきになった気がしたが…すぐにいつもの清に戻った。
『では、あの…頂きます』
俺は清から器を受け取り、麺を啜った。
『あの…清様はお腹空いてないのですか?』
清が俺をじっと見据えて
『なら私に少し食べさせてくれないか』
『え……』
そう言って清は艶っぽい唇を、少しだけ開けて俺に顔を寄せた。…清が美しくて。微だかに吹く風に、清の香の匂いが包まれる。
…胸の高鳴りが清に聞こえてしまいそうだ。俺は震えそうになる箸で麺を掴み清の口に運ぶけど上手くできなくて。
『あ…すみません…』
清がクスッと笑い俺の震える手を上から掴み…自身の口に麺を入れた。
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