昼想夜夢(仟之助)

33/39
前へ
/386ページ
次へ
それからまた忙しい日々が続き、新しい案件を組み込んだり泊まり込みになったりと。仕事は中々終わらない。そんな中だが…刻一刻と水揚げの宴の日が近付いていった。 蜜への文は、この前一緒に昼を食べて…渡したきり出していない。何故ならばあの文に精一杯の愛を綴ったから。 あとは…水揚げの宴で俺の想いを受け取って欲しい。お客としてではなく、男娼としてではなく〃愛合って蜜を抱く〃という事を感じて欲しい。 取り敢えず…男を抱くのは初めてだから書屋で春画を浅読みした。女とは手順が違うだろうし…。蜜と濃厚な時を過ごしたい。苦痛が無い様にしたい。こんな風に相手を想えるなんて…過去の俺だったら考えられない。一人の(ひと)を大切に扱いたいだなんて。思わず苦笑が漏れる。 蜜との濃い時間に想いを馳せながら 仕事の日々が過ぎ… 遂に水揚げの宴当日となった。 朝から床屋へ行き髪や眉を整えてもらい、呉服屋に新調していた新しい着物と外套(がいとう)を受取りに向かう。 『いらっしゃいませ、澤名様。ご注文の品、出来上がっていますよ』 『ありがとう。すぐに着付けてくれ』 『かしこまりました』 渋目の藍色で染めてもらい、濃い漆黒の外套を羽織る。合わせて黒帯の雪駄を履いた。 『とてもお似合いですよ澤名様』 店主が歓声を上げる。 『これなら誰でも惚れるか?』 『当たり前でございますよ。澤名様の様な色男は他にはおられません』 俺はクスッと苦笑する。 『それはありがたい』 店主に代金を払い店を出た。 それから…蜜への贈り物を、これでもないあれでもないと店を巡っては選び続ける。女子ではないからな…男子が貰って嬉しい物か。でも蜜は男娼だし、何か綺麗な…身に付ける物がいいか。 慕人に贈り物を選ぶのはとても楽しい。 胸が高鳴るのと、浮き足立つ…両方が交わり気持ちが昂るのだ。 他にも色々と購入してしまった。渡すのが楽しみでならない。俺はじんわりと熱くなる胸と、蜜とようやく触れ合える事に嬉しく感じながら男壇牡丹へと向かった。
/386ページ

最初のコメントを投稿しよう!

991人が本棚に入れています
本棚に追加