昼想夜夢(仟之助)

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男壇牡丹に入ると側役が俺達を一階の特別室に案内した。蜜の部屋で過ごすのかと思っていたが。側役が案内した部屋は大広間のすぐ脇の廊下を抜けた所にあり、部屋に入ると琥珀色に輝く大きな彪が描かれた屏風(びょうぶ)がすぐに目を惹いた。 屏風の前には漆黒の台があり、台の上にはいくつもの種のお刺身やお煮付け、酒蒸し、お吸い物、佃煮、鯛飯等…酒の肴達が並んでいる。酒や葉巻の種類も豊富に棚の上に取り揃えられていた。男壇牡丹のおもてなしに心から嬉しく思う…。 そして…屏風の裏には、ほんのりと竹細工の筒状に蝋燭(ろうそく)が灯り、優しく照らされ、金と朱色が交互に折り重なり縫われている大きな布団が敷かれている。 布団の横には様々な大きさの玩具の随喜(ずいき)や潤滑油等が並べられていて。ここで一夜を過ごすのか…と胸が高鳴ったが。蜜は緊張した面持ちで俺と目を合わせられないまま 『あの…仟之助様、上着を…預かり、ます』 衣紋掛けを取り出す。 『ああ…』 俺も蜜の緊張が移り…一言発して上着を手渡す。このままじゃ…沈黙になりそうで。蜜の緊張を解す為に蜜の肩にそっと腕を回し、優しく頬に口付けた。それからやんわりと抱き締め 『そんなに…私を怖がるな』 そのままギュッと蜜の手を繋ぐ。 『…折角の食材だ。温かい内に頂こう』 身体が密着する様に蜜と共に座り、肩に腕を回す。蜜の…甘い香りと白い肌が俺を誘って来たが、すぐに手を出すと蜜がもっと俺を怖がるかもしれない。…ぐっと堪えた。すると、蜜が震える手で俺の腕を押さえ 『あ、の仟之助様』 『ん?』 『その、このままではお酒を…お注ぎできませんので…』 と、戸惑いの瞳を向ける。俺は微笑し 『では今宵は私が注ごう』 と、お酒を手に取ったが 蜜が慌てて俺の手を押さえて 『いけません、お客様にそのような』 〃客〃という(ことば)が頭に引っ掛かり 『客ではなく。一人の男として見てくれぬか』 と、間近で云った。本心だった。他の客と一緒にしないでほしい…。戸惑いの瞳で俺を見つめる蜜を真剣に見つめた。 『ほら、蜜のお猪口(ちょこ)を取れ』 『…はい』 蜜がおずおずとお猪口を差し出す。 『さ、頂こう』 お互いにお酒を酌み交わし、一気に飲んだが 蜜は慣れないのか涙目になり《む》せて咳き込んでしまった。 『蜜、大丈夫か』 無理をさせたかと慌てて蜜に水を差し出し、背を擦った。蜜が苦笑を漏らし 『すみません、慣れなくて』 『飲めないなら無理するな』 『はい…』 俺は蜜に優しく微笑み、その後も酒を口に運びつつ…数々の料理達を蜜と一緒に食した。それでも中々蜜の緊張が解れないようで。もっと…蜜の笑顔が見たい。どうしたら蜜の自然な笑顔が見れるだろうか。 俺は蜜に向き直り… 『蜜、私に何か聞きたい事はないか』 『聞きたい事…ですか』 蜜が不思議そうな目で俺を見つめた。
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