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仟之助が男の顔付きで微笑み
『ほら早く付けてくれないとずっとこのままだ』
『…っ』
やはり優しいのか意地悪なのかわからない。やっとの事で小さな金具を繋ぎ…
『あの、出来ました』
と云って仟之助から離れようとするが、仟之助は腰に回した腕を離す気配がない。
『せ、んのすけ…様…』
すると仟之助から間近で見つめられ
『これを見ていつでも私を思い出してくれ…私も蜜をいつでも想う』
胸が熱くなった。
…仟之助に対して特別な何かが芽生えてしまいそうで怖くなる。俺は仟之助から目を伏せ、きっと俺にだけ云ってるのではない…。と自分に云い聞かせた。
でないと…心まで遊ばれてしまいそうだ。
それから夕方前に男壇牡丹の規定の時刻を迎え、仟之助が帰宅する事になった。
別れる間際…仟之助が俺の手の指先を握り
『また来る。水揚げ…良かったよ蜜』
俺と同じ男に甘く囁かれ、熱く触れられ…こんなにも気持ちが高ぶるなんて。それは俺が男娼の蜜になったからだろうか。それとも…仟之助だからなのか。
…水揚げが終わり男娼としての人生が始まったのだ。男の気持ちに左右されずに打ち込まなければ。昔よくまだ父が元気な時に云っていた言葉がある。
〃人の話も大事だが、自分という面をしっかり持っておくのだ〃
まさにその通りだ…。
自分を強く持っておかなければ。
俺は仟之助との濃い時を思い出しながら…胸元にある琥珀の天然石をギュッと握った。…残りの蓬団子を頬張り、茶店を後にする。
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