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支那蕎麦を食べ終わり…
店主から頂いたお茶を飲んでいると
清が湯飲みを手のひらで包み、ゆっくり話始めた。
『貞成様はね…私の初めてのお客様なのだ』
…清がほんのりと顔赤らめる
やっぱり清は貞成の事が
そう思った瞬間、胸がズキッと痛んだ。
『…清様は…貞成様の事』
苦しくてそれ以上…言葉が続かなかった。
清がふんわりと微笑し
『私が貞成様をお慕いしているか気になるのか』
………っ
はい、とは言えずに俺はうつ向いた。
『お慕いしていた、けど…貞成様は高いご身分のご出身なのだ。其なりに似合う、女性と先月に御婚約されたばかり…』
…そ、うなの
清の少し傷付いた表情に、先程とは違う胸の痛みが走る。俺は清の手にそっと触れた。清が…驚いたように俺を見つめてくる。
『…政』
『傷付いてらっしゃるのですか…』
清が微笑し
『私は大丈夫だ。政は優しいな』
そのまま重ねた手をギュッと握られる。
『…政、この仕事は男に抱かれる事だ。お客に快楽を遊ばせなければならない。…でも気持ちは…気持ちだけは遊ばれてはならぬ』
そして真剣に見つめられ、諭された。
『わかったか?』
『はい、清様…』
『其から生月の日、十五を過ぎたら政の源氏名が決まる。そうしたら…十六の初夜迄には少しずつ仕事を覚えなければならぬ。後、化粧の仕方も。全て私が教えるが…覚悟はあるか』
『…覚悟、ですか』
清の表情が固くなる
『男に抱かれる事は…楽ではない。でも政が少しでも楽になるよう教えていくつもりで要る』
『はい……』
確かに…清の仕事を毎晩見ているが、様々な客がいて。時には乱暴な客もいる……
不安に駈られる。でも…結局の所、今逃げ出して実家に帰っても生活は苦しいままなのだ。弟達を学校に通わせて、父に薬を買ってあげたい……。
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