牡丹と月陰

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もう時期十五になる年月のある時。 貧しい農村育ちの俺は 農事の手伝いと二人の弟の世話で忙しく過ごしていた。その日食べるのもやっとで…父は病を患っており、母は父の看病に付きっきりで…。 家族の生活は俺にかかっていた。 そんなある時、見知らぬ男に声を掛けられる。 『楽して稼ぎたくないかい?』 そんな言葉にぐっと引き寄せられた。 …楽して? そんな方法があるのか…? まだ幼かった俺には意味がわからず 両親は男たちに説得されていたように思う。 これで …俺も一人前の大人と 共に働いて、弟たちや父と母に楽をさせてやれると…仕事内容もわからないまま。この街にやってきた。 まさか…… まさか…… 男娼の世界へ飛び込むことになるとは 夢にも思わなかった。 店に着くや否や、男たちから 『上手くやりな。泣きべそかくなよ』 そう笑いながら去っていく。 知らない場所に ……一気に不安が押し寄せる。 『なに、突っ立ってるんだ。早く入れ』 広い玄関で立ち尽くしていると 店の女将から長い箆で頭や足を叩かれる。 『さっさと着いてきな』 長くて赤い布地を敷き詰められた廊下を歩くたびに沢山の部屋中から 掠れるような快感に満ちたような 悲鳴のような…甘えるような 声が聞こえた。 それが男の声なのか女の声なのか 何をしているのか、されているのか わからなかった。 ……知るのが怖い。
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