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久々に間近で観たBlood Pigeonのパフォーマンスは、あの小さな箱にいた頃が嘘の様に輝いていた。音も洗練されて完全に遠い存在になっていた。
ライブが終了した時、俺の涙腺は完全に崩壊していた。彼らの曲たちは俺たちの恋の時間にシンクロしていた。なのに俺の隣にあいつは居ない。嬉しいはずの凱旋ライブ。なのにライブが良ければ良いだけ、自分の中の喪失感に呑み込まれる。
分かっていたはずだった。Blood Pigeonと俺とアイツの時間は重なり合っていた。
片耳づつで手に入れた曲達を2人で聞いては盛り上がった時間たち。お互いに真剣に曲の感想を語りあった時間。
この半年を除けば、彼らの音楽の中に俺たちの恋はあった。
そして、ライブの終了とともに今度こそ本当に俺の恋は終わってしまったんだと実感していた。
そう、終わったんだ。いつまでも涙は止まらなかった。
泣き腫らした俺の顔を写す駅のトイレの鏡。
情けない顔。駄目だこのままじゃ。
顔を洗って心も洗い流そう。
気が済むまで顔を洗った俺は、両手で一度頬を叩いて気合いを入れてトイレを後にした。
ライブは終わった。
俺の恋も終わったんだ。このライブがけじめだったんだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
涙を流して心にけじめを付けた俺はBlood Pijeonの曲を口ずさみながら家路を進んでいた。空には満月が輝いている。そんな俺の耳に、忘れたくても忘れられないハスキーな声が俺の耳に届いた。
「虹音……」
振り返ればさっきぶりの真澄がいた。
「……真澄……、オッス!」
大丈夫。俺は笑えている。彼らの音楽が俺の恋を終わらせてくれたから。
「虹音はライブに……」
「お前もライブ来てたんだな。やっぱり趣味似てたな。同じデザインTシャツだ」
真澄の口から続く言葉が怖くて、言葉を遮り早口に明るく問いかける。
終らせたはずの思いも、真澄を前にすれば心に引っかき傷が走る。
俺が知る真澄よりも身体がしっかりしていて、日に焼けた姿。それは俺の知らない真澄。そこには確かに流れた時間があった。
「それでもサイズは違うみたいだな。また背が伸びたのか?」
「そんな虹音こそ縮んだんじゃないか?」
ほら、何事もないように2人話せる。
「相変わらず失礼な奴だな〜。でも今日は本当に良いライブだったよな」
「あぁ……。虹音?泣いたのか?」
伸びてきた俺と違って節ばっている手から咄嗟に身を引くように、俺は後ろに下がった。
「すまない。目が腫れてるからつい……」
「いや、俺こそごめん」
友達に対して俺の行動は明らかに不自然だ。意識していると言っているようなモノだ。焦りから、うるさい心拍を持て余す俺をもっと激しく揺さぶる言葉が次の瞬間、真澄の口から出た。
「……虹音、もう一度付き合えないか?俺たち」
えっ!なに?
今日終わったんだ。そう、終わったはずなんだ。
それでも真澄の真摯な瞳が俺に訴えてくる。
自分でも分かる揺れている俺の瞳。
「……今更何を言ってる?会場に好きな奴を連れて来ていたくせに!付き合っているくせに!」
喉に熱いモノが込み上げて、語気を荒らげずには居られなかった。
「待て!会場に俺がいたのを知ってたのか?付き合ってるヤツ?なんだそれ、俺は今誰とも付き合ってない。お前と別れてからもずっと」
「今更嘘をつくなよ。じゃあ卒業式のあの日俺に言ったあの言葉は何だったんだよ。『好きな人が出来た』んだろ?だから別れようって言ったくせに。それに今日、あんな可愛い子が側にいたじゃないか……」
治まっていた涙腺が崩壊して涙が頬を伝う。
「すまない。あの時の俺の言葉は俺の我儘だったんだ。怖かったんだ。どんどんお前を思う気持ちが膨らんて、束縛して、締め付けて、俺だけの虹音にしたくてたまらなかった。この気持ちを知られる前に離れなきゃって思ったんだ。あの時、だからお前が思っている以上に『好きな奴が出来た』ってお前に伝えた」
「そんな……」
「それでも離れても駄目だった。お前への思いは何をしても晴れなかった。だから今日のライブに賭けようと思った。お前に会えたら心の中を全部ぶちまけて、砕けてでもお前に気持ちを伝えたかった。そしたらお前はカフェで俺と一緒のTシャツを着て瞳を閉じてそこにいた。堪らなかった。だからお前の家への帰り道のここでお前を待ってた」
「っ、な、何でその時に声を掛けなかったんだよ?」
涙で言葉を詰まらせながら振り絞って俺は声を出した。
あの時俺は辛かったんだ。
「お前が大切にしていたバンドの凱旋ライブの前に心を乱せたり出来ないと思った。それに、従兄弟もいたしな」
「従兄弟?彼が?」
「ああ。血の繋がった正真正銘の従兄弟だ。なぁ、虹音、俺は自惚れても良いか?まだお前は俺を思ってくれているって」
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