24人が本棚に入れています
本棚に追加
数人のトス上げを終えた後、キャプテンの浪川先輩が腕をぐるぐると回しながら、不敵な笑みを僕に向けた。
「イチ! インターハイの予選、お前もスタメン入りして貰うからな!」
「へ?」
浪川先輩が告げると同時に、コーチから放たれたボールが放物線を描き、
「ブヘッ」
僕の顔面へと直撃した。
「だぁー何やってんだよ!」
坪井が僕に駆け寄るのが声で分かる。
だけど僕の左目が上手く開かない。おまけにお腹も痛みだす。
「うぅ……目が、目がぁー」
「ちょっと腫れただけで大袈裟だな!」
頭を坪井に叩かれ、大根役者の僕はゴロゴロ腹を抱えて立ち上がる。
目の痛みよりも胸が苦しい。
インターハイ予選にスタメン入りとかホラーだろ。何度も言うけど本番に弱いんだって。
ほら、ガラスメンタルな僕のお腹が騒ぎ出してる。
「うっし、イチが予選でセッターならファーストテンポの攻撃中心だな!」
「練習したらマイナステンポのバックアタックもいけるかもな」
なのに。
神崎と坪井は漫画の見過ぎなのか、合わせた事すらない攻撃を口にする。
因みにファーストテンポ(速攻)というのは、通常、セッターのトスを確認してから動き出すブロッカーよりも先に、アタッカーが既にスパイクのモーションに入っている速攻技だ。攻撃としては非常に得点に繋がりやすいメリットがあるのだけど。
いかんせん、ボールコントロールが半端なくて、正確なピンポイントでのトスが必要なのだ。
だからその技が大会なんかで決まれば目立つ。目立つという事は、波乱に満ちるという事だ。
即ち、僕の平和で穏やかなバレーボール人生が崩壊するという事。
恐ろしい。
ダメ。ゼッタイ。
ファーストテンポ。
最初のコメントを投稿しよう!