謀略エッジ

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数人のトス上げを終えた後、キャプテンの浪川先輩が腕をぐるぐると回しながら、不敵な笑みを僕に向けた。 「イチ! インターハイの予選、お前もスタメン入りして貰うからな!」 「へ?」 浪川先輩が告げると同時に、コーチから放たれたボールが放物線を描き、 「ブヘッ」 僕の顔面へと直撃した。 「だぁー何やってんだよ!」 坪井が僕に駆け寄るのが声で分かる。 だけど僕の左目が上手く開かない。おまけにお腹も痛みだす。 「うぅ……目が、目がぁー」 「ちょっと腫れただけで大袈裟だな!」 頭を坪井に叩かれ、大根役者の僕はゴロゴロ腹を抱えて立ち上がる。 目の痛みよりも胸が苦しい。 インターハイ予選にスタメン入りとかホラーだろ。何度も言うけど本番に弱いんだって。 ほら、ガラスメンタルな僕のお腹が騒ぎ出してる。 「うっし、イチが予選でセッターならファーストテンポの攻撃中心だな!」 「練習したらマイナステンポのバックアタックもいけるかもな」 なのに。 神崎と坪井は漫画の見過ぎなのか、合わせた事すらない攻撃を口にする。 因みにファーストテンポ(速攻)というのは、通常、セッターのトスを確認してから動き出すブロッカーよりも先に、アタッカーが既にスパイクのモーションに入っている速攻技だ。攻撃としては非常に得点に繋がりやすいメリットがあるのだけど。 いかんせん、ボールコントロールが半端なくて、正確なピンポイントでのトスが必要なのだ。 だからその技が大会なんかで決まれば目立つ。目立つという事は、波乱に満ちるという事だ。 即ち、僕の平和で穏やかなバレーボール人生が崩壊するという事。 恐ろしい。 ダメ。ゼッタイ。 ファーストテンポ。
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