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そのビルも、すっかり照明は落とされ、煉瓦の外壁が闇に浮かぶだけ。
もうすぐ日本で一番人通りの多いスクランブル交差点だ。
いつもは人混みでごった返してるあたりなのに、しーんと静まり返っていて、私は先輩から聞いた話を思い出した。
「あそこの交差点。誰もいない時間帯に行くと、会いたい人と願ってる人が、向こう側に立ってるんだって」
3つ年上の朝子先輩は、都市伝説の類が大好きで、いろいろ教えてくれる。
「誰もいない時間帯なんてあります?」
「めったにないよね。だからこそ…の奇跡じゃない?」
会いたい人…か。今日だったら、その都市伝説が本当かどうか確かめられそうな雰囲気だ。
交差点の一番先頭に立つ。信号は赤。だけど、車一台通っていなくて、普段だったら、車や人に遮られて見通せないあちら側がはっきりと見えた。
……え?
私の見間違いだろうと、何度も目を瞬いた。
ひょろっと高い背の『彼』が向こう側にぼんやりと立っていた。
ああ…と何かがすとんと胸の奥底に落ちていく。
やっぱり、そうなんだ。5年間、諦めと希望の境をゆらゆらと彷徨っていた心が、やっと方向性を定め、あるべき場所に落ち着いていく。
――あなたはもう、こっちの世界の人じゃないのね…。
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