学園初日 「それ以上近づかないで」

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学園初日 「それ以上近づかないで」

エドアルドの唇をぬぐい終え、コンパクトで自分の顔を確認すると理紗はうめいた。──口まわりがエドアルドよりひどいことになっている。 ハンカチではみ出した部分を慎重に拭い、新たにルージュをひいた。コンパクトを右に左に動かし、不備がないか念入りに確認する。 さいわいにもヘアスタイルに崩れはみあたらない。 その様子を見つめるエドアルドの熱心な視線に気づき、理紗は横目でジロリとにらんだ。 「もうそれ以上近づかないでよ」 「──婚約破棄など認めないぞ」 「……」 「わかったな?」 「…なによ偉そうに」 「なっ」 目を剥くエドアルドに人差し指を突きつけ、理紗はきっぱり言い放った。 「今度また不埒な真似をしたらもう二度と口をききませんから!」 「メアリロ」 「いいですね!」 ギュッと眉根を寄せて口を引き結んだエドアルドは応じようとしない。 つまり隙あらばまた、と思っているのだ。 理紗は目をつり上げた。あの調子では結婚前に孕まされてしまう。 「目も合わせませんよ! いいんですか!?」 「くっ…。わ、わかった」 「何がわかったんですっ?」 「キミの意思を無視しての不埒な真似は二度としない」 「よろしい」 大きく頷く理紗にエドアルドが「だが」と続けた。 「この条件は私以外の男も同じか?」 「当たり前です!」 「ならばいい。約束は守ろう」 満足げなエドアルドに理紗は心のなかでため息をついた。
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