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学園初日 「ヒロイン登場」
「ごめんなさいっ」
清んだ鈴の音のような可愛らしい声だった。
焦げ茶のおかっぱ頭の女の子が、エドアルドの背中にぶつかったのだ。
「前をよく見ていなくて…大丈夫ですか?」
「いや、こちらこそ進路の妨げになってすまない」
いやいや、ここすごく広いよと理紗は心のなかでつっこんだ。
学園の門前広場は噴水を中心にかなりゆったりとしたスペースがとられており、ロータリー方式で馬車が次々止まっては走り去っていく。
なかでもエドアルドの白金の馬車は一段と派手なものだった。
誰のものかわかっているのだろう、みな遠巻きにしていて不用意に近づくものなどいなかった。
エドアルドの肩越しに見える赤いカチューシャを目にし、理紗は「あっ」と声をあげた。
ヒロインだ。間違いない。理紗と同じ制服で赤いカチューシャがトレードマークなのだ。
そろりそろりと静かに後ずさると、理紗は二人を置いて学園のなかに足を踏み入れた。
エドアルドが名前を呼ぶ声がかすかに聞こえたが理紗は黙殺した。ヒロインの邪魔をする気はないのだ。
右も左もわからないこの世界で、人畜無害に生きていく。そう決めていた。悪役令嬢として人々から疎まれる毎日なんてごめんだ。
門から建物へ続く道を歩いているときだった。
「メアリローズさま…!」
「お姉さま!」
と呼ぶ声が理紗を呼び止めた。
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