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学園二日目 「馬の世話」
「どいてくれ。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「そうなの? ごめんなさい、知らなくて」
道をあけると青年が無言ですり抜け、近くの馬房に歩み寄った。
天井の梁から吊るされたバケツに飼い葉を入れると馬が食べる様子を確認し、次の馬房へと移る。二つあった桶はすぐに空になった。
厩舎内には他に人はおらず、馬房は遥か彼方までずらりと並んでいる。
この作業を一人で行うのは大変だろうと理紗は思った。
「私もお手伝いしていい?」
「…あんたが?」
胡散臭そうにジロジロ見られ、理紗は少々ムッとした。
「お邪魔かしら」
「邪魔だね」
まあ。
「少しくらいなら役に立つわよ」
「悪いがそうは思わない」
「なんでよ?」
その令嬢らしからぬ物言いに、相手は面食らったようだった。
「…馬の世話をしたことがあるのか?」
「ないわ」
胸を張る理紗にあきれた顔をして、青年は空の桶を手に厩舎を出ていこうとする。そのあとを無言でついていった。
馬の世話をしたことがなくても飼い葉の補充くらいはできるはずだ。
なにより理紗は暇を持て余していた。そしてエドアルドに付きまとわれている分、邪険に突き放されるのは妙に気分がよかった。
「何でついてくるんだ。そもそもあんた名前はなんだ。この学園の生徒だろう?」
「メアリーって呼んで。あなたは?」
「リック」
「よろしく、リック。桶はこれを使えばいいの?」
飼い葉置き場の片隅に積まれた桶を二つ持ち理紗はにっこりと笑った。
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