学園二日目 「メアリローズの書」

1/1
前へ
/88ページ
次へ

学園二日目 「メアリローズの書」

その本は彼女の設定資料集のようだった。 名前と家柄、公爵家の見取り図に、彼女に関わるキャラクターの紹介などが記されている。専属侍女のドロレスや執事のヒュルケン、御者のビリアムの名前もある。 それによるとメアリローズの特技はピアノとバイオリンで趣味は乗馬とあった。 生まれる前からの王子のフィアンセで歳は十八。 二十歳の誕生日に婚姻予定とある。 そしてページをめくる理紗の手が止まった。 「メアリローズの末路…?」 不吉な書き出しの文章にドキリとした。 そこにはヒロインが王子を攻略した度合いにより、メアリローズの行く末が変化するとある。 「学園追放、婚約破棄、王子の…殺害」 バサッと本が床に落ちた。 理紗はそれを呆然と見つめていた。 「なんなの、殺害って…」 「メアリローズ?」 突然の呼び掛けに理紗は飛び上がった。 振り向くとそこには怪訝そうな表情のエドアルドがいた。 「あ…」 「遅くなってすまない。昼食を取りに行こうか」 「え、ええ」 差し出された肘に腕を絡め、不安感からぎゅっと力が入る。 「どうした?」 「ううん、なんでも」 「今日は天気がいいからカフェテリアのテラス席でと思うんだが、どうだ」 そうね、と頷きながらそっと背後を振り返ると、床に落としたはずの本は跡形もなく消えていた。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

299人が本棚に入れています
本棚に追加