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学園三日目 「告解室の声」
「えっ、あの…すみません、ちょっと好奇心から覗いてみただけなので…」
しどろもどろに言い訳をすると、理紗は扉を閉めて立ち去ろうとした。
部屋は無人だが置かれている椅子の正面は格子状の壁となっていて、その向こうに人がいるようだ。告白を聴き赦しを与える神父かなにかだろう。その声は穏やかで甘みのある男性のものだった。
「ほんのささいな好奇心でもかまいません。なにか思うことがあればお話しください」
えぇ…まいったな。
理紗は迷った。
何を話せばよいのかわからないし、顔も知らない相手に秘密を打ち明ける勇気はない。
「では少し雑談でもしませんか? 朝から誰も訪れず暇を持て余しているのです」
「はあ…」
それなら自分と同じだ。
理紗はおそるおそる椅子に腰を掛けた。
格子状の壁はどの角度からも相手の顔を透かし見ることはできなかった。ただぼんやりと光りを通し、向こう側に座る人物の輪郭を浮かび上がらせるだけだ。
「告解をなさったことは?」
「ありません。クリスチャンではないので」
「信者でなくとも告白に訪れてよいのですよ? 赦しの扉は誰にでも平等に開かれていますから」
理紗は肩をすくめた。そうは言っても敷居は高い。
「神父様も赦しを求めることがあるのですか?」
「ええ、しょっちゅうです」
「しょっちゅう? そんなに?」
クスリと笑うと相手の笑いを含んだ声が続けた。
「ええ、私はとても罪深いのですよ。──メアリローズ嬢」
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