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学園三日目 「誘惑の小部屋」
見つめる瞳と口づけられた手の甲から、甘い痺れが体内に染み込んで来るようだった。
鼓動が早まり、息が苦しい。
それを悟られるのはたまらなく恥ずかしいのに、鋭い相手にはなにもかも見透かされているとわかっていた。
「……なぜそこまでしてくださるんですか…?」
「自分でもわかっているはずです。貴女には素質があると言ったでしょう?」
理紗の目は反射的にシュバルツのネクタイの色を確認していた。今日はあのシルバーではなかった。
「この色はお気に召さないようですね」
「……」
「なぜかは知りませんが、貴女にはこのことに対する知識があり、その上で偏見や嫌悪はない。そして怖じ気を上回る興味と好奇心がある。適性も」
「先生…」
「そんな相手は滅多にいません。この先も、出会えるとは思えない」
憂いを帯びた目で見つめられ、こちらまで切なくなってきた。
いけない、と理紗は唇を噛み締めた。
相手の感情に引きずられすぎている。
「謁見の引き換えに、私に何を望んでいるのですか?」
「なにも」
勇気をふりしぼった質問に対する簡潔な答えに理紗は戸惑った。
「なにも?」
「そう、なにも。ただ貴女の心が自由になればそれでいい」
「……」
「それからのことはその時にならないとわからないでしょう? 見返りは求めせん。取引も無しです。ただ、私との未来を選択肢のひとつとして加えてくれたら嬉しい。望むのはそれだけです」
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