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学園三日目 「見返りは求めない」
そんな優しさを示されるとは思わず、理紗はただただ戸惑っていた。
王子を敵にまわすことはシュバルツにとってとるにたらないことなのだろうか。
それとも罪悪感から理紗が自分のもとへ来るのを見越しているのだろうか。
うまい話には裏がある、という諺が脳裏をよぎった。
「信用できない、という顔ですね」
クスリと笑ってシュバルツが立ち上がった。
「そろそろ時間です。どうぞ」
扉を開け、理紗に外へ出るよう促してくる。
かすかに鐘の音が聴こえ、理紗は重い腰をあげた。
「私はもう少しここで時間を潰します。またなにか話がしたかったらおいでなさい。ここか個人オフィスのどちらかにはおりますから」
「…失礼します」
ふらつく体を意識して伸ばし、理紗は告解室から出た。そのまま足を止めず礼拝堂を抜けると、エントランスの螺旋階段を降りてくるエドアルドとかち合った。
「戻っていたのか」
「ええ、バッグの引き取りを思い出して…」
手に持つバッグを胸の高さに持ち上げると、エドアルドが頷いた。
もう落とすなよ、といたずらっぽく微笑まれ、理紗は曖昧に微笑んだ。
「では行こうか」
差し出された肘に手を置き歩き出す。
礼拝堂を振り返りたい誘惑にかられつつも、理紗はなんとかこらえ、前だけを向いていた。
隣ではエドアルドがランチについて何か話していたが、まったく頭に入ってこなかった──
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