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休日 「ディナー」
結局オペラに行かなくてよくなった。
乗馬のレッスンと仕立て屋の件に加え体調不良であること、そしてオペラは気が乗らないがディナーであれば喜んで、と手紙にしたため、王子の使者に託した。
「18時に迎えに来る、ですって」
乗馬のレッスン後に再度訪れた王子からの手紙を読んで理紗が言うと、ドロレスが満足げに頷いた。
「うちでご飯がよかったな……」
一般的なOLだった理紗からすれば、この公爵家で出されるものはすべて素晴らしい、の一言につきる。
朝食のスクランブルエッグからして一流ホテルのそれのようにふわとろで、黄身のうま味もしっかり濃厚という贅沢なものだ。毎日の夕食のフルコースなんて文句のつけようもない完璧なものだった。
わざわざ外に食べに行く必要なんてないと思うのだが「王子をディナーに呼んでいい?」と口にしたらドロレスに目を剥かれた。執事のヒュルケンは表情を変えずに「かしこまりました」と言ったけれども、その背後から専属侍女に血走った目で見据えられ「やっぱ出掛けてきます」と理紗は希望を引っ込めた。
「仮にも一国の王子を急に晩餐にお呼びしようだなんて……!」
ぷりぷり怒るドロレスは理紗にドレスを着せると数歩後ろに下がり、全体のバランスをチェックしている。妥協を許さぬエキスパートの目が素早く動くのを理紗はぼんやりと見ていた。
そして約束の18時に迎えに来たエドアルドに連れていかれたのは、彼が住まう王城だった。
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