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学園初日 「馬車でふたりきり」
「昨日のあれはなんなんだ。まさか本気じゃないだろう?」
王子の馬車は白い車体に金飾りがふんだんにあしらわれたゴージャスかつセレブリティなものだった。いっそ気持ちがいいくらいに王族らしい。
「メアリローズ」
深紅のソファはふっかふかのベロア地で、車軸のサスペンションも上等だった。まるで国産高級車のように振動を感じさせない。
「メアリローズ、こっちを見ろ」
キョロキョロしっぱなしの理紗に業を煮やし、向い合わせで座っているエドアルドが手を握ってきた。
いきなりのことに理紗は目をつり上げた。パッと手を振り払う。
「気安くさわらないで!」
「すまない…。だが話を聞いてくれ。なぜ婚約を解消したいなどと言ったんだ」
「……」
「お互い乗り気じゃないとはどういう意味だ。君は私が嫌いか?」
さて、どうしようと、理紗は思った。
昨日の捨てゼリフは夢だと思ったから口にしたことだ。
なにをしても、なにを言っても、なんの責任もとらなくていいとたかをくくっていたがゆえの発言だ。
今更ながら軽率な己を悔いたが、やっちまったもんはしょうがない。
理紗は静かに口を開いた。
「嫌いじゃありません。……好きでもないけど」
「メアリローズ…。なぜだ。なぜそんなことを言う」
「だって王子のことなにも知りませんし」
エドアルドが目を見開いた。
「それに王子は今日運命の出逢いをするはずです。私じゃない他の子と」
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