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異世界初日 「気がつけば異世界」
シャッとカーテンが引かれ、差し込む日差しに理紗は顔をしかめた。
寝返りをうち、寝具を頭の上まで引き上げる。
だれよ…勝手に……と思いハッとした。自分は独り暮らしだと思い出したからだ。
「お嬢様、お目覚めですか? さぁさぁ起きてくださいまし。本日はピアノと声楽のレッスンがございますよ」
「お…お嬢様?」
おそるおそる顔を出すと、メイド服に身を包んだふくよかなおばさんがいた。
え、誰この人。
とまどう理紗にかまわずおばさんは次々とカーテンを開けていく。
その光に満ちた室内に目をみはった。
おそろしくクラシカルでゴージャスな部屋だった。
まるで中世ヨーロッパの貴族の寝室のようだ。
いやこれ絶対夢だわ。
ぽかんとしながら理紗は思った。だって自分は中堅企業に勤めるアラサー事務員なのだから。
意を決してベッドを降り、おばさんがどこからか持ってきたドレスに着替えた。赤いシルクタフタのずっしりと重いドレスだ。サイズはぴったりだが全然趣味じゃない。
椅子に座らされ、髪を丁寧にくしけずるおばさんに思いきって話しかけた。
「あの…」
「なんでしょう?」
「お名前を伺ってもいいですか?」
「ほほ、なんですかお嬢様。ドロレスでございますよ」
「ドロレスさん」
「さん付けなんてめずらしい。一体どうなさったんです?」
楽しそうに話すおばさんに理紗はなんでもないとつぶやいた。
そして次の瞬間息をのんだ。
「まぁた何かよからぬことをお考えで? メアリローズさま」
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