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真っ暗な中で、麻耶は体が揺すぶられるのを感じた。
「麻耶、麻耶」
目を開けると、目の前には見慣れた同僚である柘植雅美の顔。不自然な角度に一瞬迷ったが、どうやら自分は横たわっていて、覗き込まれているのだと理解した。
「あれ? 雅美?」
「あ、気がついた」
呆れたような雅美の顔。
「ここは?」
「駅の仮眠室よ。貸して貰ってるの」
雅美はそう言って、それから小さく溜息をついた。
「ほら、起きれる?」
言われて起き上がろうとして、ちょっと体がふらつく。
「全く、また朝御飯抜いたのね」
「うん、時間が無かったから」
「そんな事するから、電車の中で倒れたりするのよ。一回や二回じゃないわよ? いい加減学びなさいよ」
「でも……賀茂ナスが……」
麻耶の言葉に雅美は眉をひそめた。
「何言ってるの? 大丈夫?」
真顔で尋ねられると、ちょっと自信が無い。
「賀茂ナス? 食べたいの? じゃあ、今度の休みに京都でも行く?」
「ううん……いい」
賀茂ナスを思い出すと、どうしてもあの嫌らしい笑顔が目に浮かぶ。あんな悪夢のような光景は、もうごめんだった。
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