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俺が間違って告白した相手はクラス一の地味な女子だった
◇◇
翌朝――。
いつもどおりに何食わぬ顔で教室へ入ると、親友の恭一が駆け寄ってきた。
「おーっす! 雄太! おっはよう!」
「おはよ」
「んだよ! つれねえなぁ! どうした? 振られたか?」
「逆だよ」
「はぁ!?」
やばっ。
思わず本当のことを言ってしまった。
「いや、ギャグだよ。ギャグ」
「そうだよなぁ! 冗談きっついぜ! 雄太に彼女ができるとか、ありえねえっつーの! ははは!」
「はは……。ははは……」
いや、ほんとキツイ冗談じゃないかって今でも思ってる。
席について窓の方へちらりと視線を送る。
そこにはクラスの女子たちと談笑する幼馴染の春奈の姿があった。
春奈もまた俺の方をちらりと見てきた。
が、視線が交差したのもつかの間、彼女はすぐに俺から視線をそらして、再びクラスカースト上位の女子たちとおしゃべりにいそしんでいる。
その様子はまるで「あんたなんか眼中にないから」と言わんばかりだ。
「ふん」
鼻を鳴らして俺も視線を別に向けた。
その直後、大切なことをふと思い起こした。
「あ、そうだ」
「ん? どうした?」
遠藤加奈のことだ。
高校に入学してから1年と2ヶ月。
他人に対してあまり興味のない俺は『遠藤加奈』という名前を憶えているが、どんな人物なのか知らない……。
「遠藤は……」
「遠藤? あいつのこと?」
恭一が眉をひそめながら教室の隅を指さした。
俺の目に飛び込んできたのは、誰ともしゃべらず、黙々と現国の教科書を読んでいる女子だった。
「あれが遠藤加奈……」
まじまじと眺めたのは初めてだ。
両サイド垂らした三つ編み。
大きめの丸いメガネをかけた小さな顔。
ぽっちゃりまではいかないけど、柔らかそうなふっくらした体つき。
長めのスカートに白いソックス。
窓から差し込む朝日を浴びてキラキラと輝いている春奈と比べれば、まるで正反対。
例えるなら木陰でひっそりと身を潜めているウサギのような感じだろうか。
ぼけっと彼女を見ていた俺に恭一が眉をひそめた。
「うちのクラス一の『地味子』だぜ。あいつがどうした?」
「えっ? いや、なんでもない」
「ふーん。まあ、いいや」
――キーンコーン、カーンコーン……。
チャイムが鳴り響くと同時に恭一をはじめ、生徒たちが一斉に自分の席に戻る。
俺は素早くスマホを取り出すと、遠藤へメッセージを送った。
『放課後。校門の前で待ち合わせしよう』
直後にホームルームが始まったから、彼女が俺のメッセージを確認できるのは1限目が終わった後の休み時間だろう。
その休み時間に再び遠藤の方へ視線を送った。
彼女はスマホを覗き込んでいる。
そして白い頬を桃色に染めながら、嬉しそうに下唇を噛んでいた。
ズキンと胸に痛みが走る……。
でも、しっかりと言わなくちゃならない。
昨日の告白は手違いだった、と。
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