ごめん、なんて言えない

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ごめん、なんて言えない

◇◇  放課後――。  恭一が数人の男友達を引き連れて俺の席までやってきた。 「雄太! マックよっていかねぇ?」 「ああ、わりぃ。今日はパス」 「んだよ! 今日は朝からつれねえなぁ。振られたか?」 「だから逆だって」 「それはギャグなんだろ? ははは! んじゃあな! また明日!」 「ああ、また明日」  彼をやり過ごしてからも、しばらく教室の中でボケっとしていたのにはれっきとした理由がある。  クラスの全員が教室から出ていくのを待っていたからだ。  下校する人もいれば、部活に行く人もいる。  いずれにしても時間がたてば校門には人が少なくなる。   「あんまり見られたくないもんな……」  メガネをかけた地味同士が校門で待ち合わせているのを見られたら、それこそクラスのKINEで一気に噂が出回るだろう。  俺はどうなってもいいが、遠藤が迷惑をこうむるのは面白くない。  だって、俺の手違いでこんなことになってしまったのだから……。    教室から誰もいなくなったのは終業のチャイムが鳴ってから20分以上たってからだ。  遠藤はチャイムが鳴ってからすぐに教室を出て行ったから、校門で俺を待っているはずだ。 「はあ……」  俺は重い足取りで教室を出た。    なんて言おうか。  軽い調子で「あの告白はなしで!」と告げるべきだろうか。  それとも重い雰囲気で「ごめんなさい」と頭を下げるべきだろうか。  何を言っても彼女を傷つけてしまうには違いなさそうだ。  だったら素直に謝るしかないよな。  俺は「ごめんなさい」と告げることを心に決めて、校門までやってきた。  遠藤の小さな背中が目に入る。    意外と背低いんだな。  春奈は中学の時はバレー部で身長が高い方だから、彼女を基準に考えれば、そりゃ誰でも背が低く感じられてもおかしくないか。   「あ……」  遠藤が俺の足音に気づいたのか、ふっと振り返った。  そして頬を赤らめながら、俺をじっと見つめている。  俺は心の中にモヤモヤを抱えたまま、彼女に視線を送り返した。    しばらく二人で見つめ合う。  俺はペコリと頭を下げた。 「ごめん、待たせちゃって」    すると彼女はほっと胸をなでおろした。   「よかった」  あまりに意外な言葉に、俺は声を失う。  彼女はうつむき加減になって続けた。   「……振られちゃったらどうしよう、って思ってたから」 「え?」 「雄太くんを校門で待ってる間にね。考えたの。実は私を驚かせようとして告白してくれただけなのかなって……。だからこのまま校門に来てくれなかったらどうしようって」  胸にグサリとナイフが刺さったような痛みが走る。  だって俺がここにきたのは、まさに彼女を振りにきたのだから。  だが、俺の身勝手な事情などつゆともしらず、彼女はぎこちない笑みを浮かべたのだった。   「だから嬉しかったの。こうして来てくれて」  俺は喉まで出かかった「ごめんなさい」を失ってしまった。  一生懸命に慣れない笑顔を作り、俺が待ち合わせの場所に現れただけで喜んでくれている彼女に「あの告白は間違いだった」と言える勇気を持ち合わせてない。   「帰ろっか」  俺は彼女を追い越した。  てくてくと彼女が後ろを走ってついてくる。   「うん」    これからどうしよう……。  不安で胸を押しつぶされそうになる。  でも一方で、背後から聞こえてくる息遣いに胸は高鳴りっぱなしだったのが、自分でも不思議でならなかった。
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