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本気? それとも授業の続き?
――Would you like to go on a date with me?(私とデートへ行ってくれませんか?)
そう俺が加奈に向かって言ってしまったものだから、教室がにわかに騒がしくなったのも無理はない。しかしクラスの興奮を鎮めるように、高畑先生が声をあげた。
「よし! 私にとっては残念な結果だったが、今日はここまで! みんなはちゃんと『Would you like』が使えるように友達と練習しなさいね!」
「はーい!」
先生はポンと俺の肩を叩き、
「田中! パーフェクトだ! いい『例文』だったぞ! ははは!」
と大笑いしながら教室から出て行く。
先生が「例文」と大声で言ってくれたことで、クラスメイトたちも「そりゃ、本気で誘うわけないよな」という雰囲気になり、教室の中は何事もなかったかのように、普段の休み時間のにぎやかさに包まれていった。
しかし加奈は目を大きくして、まるで石像のように固まったままだ。
一方の俺は椅子を持ってすごすごと自分の席に戻っていく。
そしてニタニタして近づいてきた恭一に「トイレ行ってくる!」とわざとらしく宣言して廊下に出たのだった。
………
……
一人になったところで、ようやく冷静になる。
すると胸を締め付けるような強い後悔に襲われた。
「俺……。何やってんだろう……」
仕方なかったとはいえ、みんなの前であんなことを言ってしまうなんて……。
行く宛てもなくトボトボと廊下を歩きながら、窓の外を覗く。
広がる空は、俺の心の中のように曇っていて、余計に俺を憂鬱にさせた。
しかし時間がたつにつれて、一つの疑問が心の中で大きく膨らんできたのである。
それは……。
「さっきのは手違いだったのか?」
ということだ。
確かに加奈へSNSで告白したのは手違いだった。
でもさっきのはどうだったのか……。
「俺にも分からない……」
トイレはとうに通り過ぎ、気づけば教室からかなり離れた体育館のそばまできている。
「俺……。どうしちゃったんだろう……」
そうつぶやいたところで、
――ブルルッ。
ポッケの中のスマホが震えた。
廊下の端に寄って素早く画面を開く。
『遠藤加奈さんからKINEにメッセージが届きました』
という表示。
「加奈?」
俺は慌ててKINEのアイコンをタップした。
そしてメッセージを目にした瞬間に、ドンと強く胸を打たれたかのような衝撃に襲われたのである。
『Yes,if I can.』
――はい、私でよければ。
それは言うまでもなく、さっきの返事に違いない。
『Would you like to go on a date with me?』
『Yes,if I can.』
――私とデートへ行ってくれませんか?
――はい、私でよければ。
俺は急いでメッセージを送り返した。
『本気? それとも授業の続き?』
するとすぐに返事がかえってくる。
『雄太くんはどっちがいい?』
返事は考えるまでもない。
『本気がいい』
『だったら私も本気がいい』
メッセージを目にしたとたんに、ぐわっと腹の底から興奮と混乱がわきあがってきた。
「加奈とデート……。まじか……!」
――キーンコーン、カーンコーン。
次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いたが、俺は固まったまま一歩も動けなくなってしまったのだった。
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