加害者

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 気づけばベッドの上だった。目を開けて、一番最初に目に入ってきたのは白い天井。あぁ、家に帰って俺は寝ていたのか、と思った。最近は家までどうやって車を運転してきたのか記憶がないことも多かった。だから、また無意識に家に帰ったのだろうと思っていた。 「お話を伺ってもよろしいですか。」 と声をかけられるまでは。  突然視界に入ってきたこのスーツの男は誰だ。何故俺の部屋にいる。状況を確認しようと俺は体を起こして、目を覚ますために目を擦った。そのとき、頭に激痛が走った。 「うっ…」 なんだ、この痛みは。そう思いながらも顔を上げる。そこで初めて気づいた。ここが自分の部屋でないことに。 「僕はこういうものです。」 「は?」 そう言ってスーツ男が見せてきたのは警察手帳だった。 「三宅 健二さんで間違いありませんね。」 「…はい。」 ここは、病室、か?   俺の頭の中にたくさんの疑問符が浮かぶが、とりあえず警察官の質問に答える。警察官は何やらメモを取りながらいくつか質問をしてきた。何故、俺は病室に居るのか、何故俺の目の前には警察がいるのか全く理解が追いつかない。  ただ、どこか嫌な予感がした。その予感の通り、警察官は衝撃的な事実を口にした。 「あなたは、交差点で信号無視をして、人混みの中に車で突っ込み、6人もの人をはねました。その中には7歳の小学生もいました。」 「…は?」 俺が、人を、はねた? しかも、6人も? 「覚えてませんか。」 俺の思考回路をぶった切って、冷たい声で尋ねてくる警察官。そして非難するような目を向けてくる。 「ま、待ってください。何かの間違いじゃ…」 俺は戸惑いながらも必死で弁明しようとした。しかし、自分で弁明しようとしたした瞬間、津波のように記憶が頭の中に流れ込んできた。  自分が赤から青に変わったと思っていた信号は、赤、黄、赤と、変わっていた。信号無視をした俺はそのまんま訳の分からない奇声を発しながら人混みに突っ込んだ。車のフロントガラスに人が当たる振動、人を車のタイヤで踏んで、車が浮いて感じた浮遊感。全てが、吐きそうな程に鮮明に思い出される。俺は、慌ててブレーキを踏んだ気がする。でも結局車が止まったのは電柱にあたってからだった。その時に俺は気を失った。恐らくこの時に頭を打ったため、先程頭痛がしたのだろう。  気を失う前、車の外から聞こえてきたのは悲鳴、悲鳴、悲鳴…。 大声で叫ぶ声が沢山聞こえてきたようにも思うが、1番聞えてきたのは耳を劈くような悲鳴だった。  記憶が戻ってくるにつれて、警察官の顔を見れなくなり、俯いた。全てを思い出した俺の口から出たのは、乾いた笑いだった。  「はは、ははは…」 「何、笑ってるんだ。」 俺が俯いたまま笑い出すと、心底信じられないというふうに警察官はそう言った。でも、もう笑うしかねぇよ。必死に働いて、やっと家に帰れると思ったらこれか。小学生を含めた6人を轢いた犯罪者かよ。俺、なんか悪いことしたか? 後輩の負担を減らそうと必死に働いて、いつかは楽になれるって自分に言い聞かせて毎朝出勤してさ…結果がこれ? 馬鹿げてるだろ。俺はなんのために生きてきたんだ、なんのために働いていたんだ。 「人殺しになるためじゃねぇよ…」 「はい? 」 俺の呟きは小さすぎて警察官にはなんて言ったか伝わらなかったらしい。元々伝えようと思って言ってないが。  俺の笑いはいつの間にか消えて、目から涙がこぼれ落ちた。思わず、顔を片手でおおった。警察官が俺にイラついているのがわかった。  でも、俺だってイラついてんだ。こんなことをしでかしてしまった自分に。もう、どうやって生きていけばいいかわかんねぇ…
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