幼馴染の仕返しはとても甘くて、切ない。

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 「美佳ちゃんって相変わらず、つんけんしてたわよね。本当、次郎に不細工なんてよく言ったわよね。昨日次郎、どうしたのかしら? うまく美佳ちゃんを落としたかしら? 許さないって言ってたし、当然よね」  それは翌日、母の代わりに買い物に出かけた時に聞こえてきた言葉だった。  町のスーパーの中にある、小さなカフェを通りすぎたときに、聞こえてきた。  そう話していたのは田中さんで、私に背を向けていて私がそこにいることが分からなかったみたいだった。  でも向かいに座っている北野さんが、私に気づき目を剥く。それで田中さんも私が聞いていたのがわかったみたいで、慌てて立ち上がった。 「美佳ちゃん! ごめん。そんなつもりじゃ」  田中さんが泣きそうな顔でそう言った。  やっぱりね。  そういうことか……。  だから田舎は嫌い。  クラスの子と打ち解けたなんて、馬鹿なことを考えた……。 「気にしないで。わかっているから」  私はそう言うと小さなカフェを慌てて後にした。  それからどうやって家に帰ったか覚えていない。  買い物をしてこなかった私を母が呆れていた。  でも蒼白な顔の私に何も言わなかった。  その夜、私は帰る準備をした。  あの冷たい場所に戻りたかった。  誰も私に構わないあの世界に戻りたかった。 「美佳……本当に帰るの?」 「うん、仕事も忙しいし。美貴も幸せそうだったから」 「そう……また帰ってくるのよ」  寂しそうな母を見ながら、私はバスに乗った。  バスから見る光景はやはり変わらなかった。    結局何も変わっていない。  やっぱりこの場所は嫌いだ……。    車窓からのどかな光景を眺める。帰ってきた時とは少し違うルートを辿り、バスは村を抜けた。そして駅のある町に着いた。  駅近くのバス亭で降り、私は信じられない姿を目に入れる。  河野が車を停め、私を待っていた。 「おばさんから聞いて追いかけてきた。帰るの?」 「うん」 「電車まだ時間があるんだろ? ちょっとコーヒー飲もうぜ」  河野はそう言うと強引に私を近くの喫茶店に連れて行った。 「田中から聞いたんだって?」 「うん、まあ。聞きたくて聞いたわけじゃないけど」  アイスコーヒーを二つ頼み、私達は窓際の席に向かい合って座っていた。 「傷ついた?」 「まあ……ね。でもやっぱりと思ったけど」  河野の言葉に私は淡々と返事をする。  そんな自分に私自身が驚いた。 「でも、みんな、美佳の変わりように驚いていたのは確かだぜ。だって六年前、お前の態度ひどかったから」 「……」  河野の言葉は私の胸をえぐった。  知っていたけど、事実を突きつけられて苦しかった。 「俺はお前が浮いているのがかわいそうだと思って、世話を焼いていた。でもあんな言葉を言われるなんて思わなかった」  『かわいそう』  河野から出た言葉に私は自分がまた傷つくのがわかった。  でも表情を崩さなかった。  傷ついていることを知られるのが悔しかった。 「本当、あの時不細工なんて言われるとは思わなかった。おかげでダイエットする気になったんだけどな。本当、痩せて、コンタクトにしただけで、もてまくってびっくりしたよ」  河野はそう言葉を続けて笑った。 「だから、お前が戻ってくるってわかって、仕返ししてやろうと思った。だって、あの時本当に傷ついたから」  私は何も答えず、ただ河野を見つめた。彼はそんな私から目線をそらさなかった。 「でも、つまんないよな。お前は引っかからなかった。こんなにかっこよくなったのに」  河野は残念そうに笑う。それは本当に悔しそうで、私の胸が痛みを訴える。 「……ひっかかりそうになったよ。だって、すごくかっこよくなったから」 「そう? 惜しかったなあ」  私は強がりな態度でそう答えた。  本当は勘違いしてしまいそうになった。  河野が自分のことを好きだなんて勘違いするところだった。 「河野……あの時は本当にごめん。本当はそんなこと思っていなかった。ただ皆にからかわれて嫌だったから」 「……わかってる。今はわかるよ」  河野はふわりと笑ってそう答えた。  その笑顔に私は心臓がどきどきするのがわかった。  くやしいが、河野は本当にかっこよくなった。 「じゃ、私、帰るね。電車がもう来る時間だから」  私はそう言うと席を立った。運ばれてきたアイスコーヒーは結局飲む時間がなかった。 「もう戻ってこないのか?」 「うん、私にはやっぱり村があってないから」  喫茶店から出て駅へ歩きながら、私達はそんな会話をしていた。 「……そんなことないと思うけど」 「……」  私は苦笑して河野の言葉を聞き流した。  やはりここは私の居場所じゃなかった。   「美佳!」  手を振って構内に入ろうとする私を河野が呼び止める。 「俺、嘘じゃないから。昨日、美佳と付き合いたいと思ったのは本当だから」  私は振り向かなかった。  本当だと思えなかった。  そして私は私の居場所に帰った。
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