満員電車は戦い

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

満員電車は戦い

 朝日が昇ってしばらくした頃、わたしは電車に乗る。毎日同じ車両、同じ時刻、そして車内の同じ面子。  どこの誰かも知らない人達と、毎日同じ電車に揺られている。狭いスペースで片寄あって、目的地までひたすら我慢する同士でもある。  社会の荒波に揉まれて数年。満員電車というひとごみは、人間観察眼には最適だった。  通路には鞄に尖った牙のアクセサリーを着けて密着するOL風の女がいる。牙がみぞおちに入って痛いから必死で押し退けると、奇怪な目を向けられるのはわたし。痛かったのははわたしやねんけど。何でや。  ドアのすぐ横には毎日近くにいる人の悪口をTwitterにいちいち投稿する(しかも内容が丸見えなのに本人は気付いてない)女子高生。今日のターゲットはわたしになったらしい。さっそく投稿している。「満員電車で痛いとか言うな」だと。お前のみぞおちにも牙を押し付けたろか。  つり革に掴まったまま眠ったふりをして痴漢を試みるオッサンが、船を漕ぎながら顔を近づけてくる。困っていたら、隣のおばちゃんがスペースを上げてくれて助かった。  誰もいなくなってもまだ寝たふりしてるオッサン。起きるタイミング逃したな。でも、誰も寝てるなんて思ってへんで。  満員電車はネタに事欠かない。でもいい話はほとんど聞かない。社会の縮図かもしれない。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!