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「うん、上出来」
オレンジ色のワンピースに紫色のマント。黒いトンガリ帽子をかぶって、『魔女』が完成した。仕上げに白黒縞模様のニーソックスを履いてしまえば、魅惑的なハロウィンパーティーの仮装になった。
橘優希(タチバナ・ユウキ)は鏡の前でくるりと回って自分の姿を確認した。翻ったワンピースの裾は短くて、扇情的だ。
「これなら、きっと大丈夫」
最後に、脱いだTシャツやジーパンなどを詰め込んだボストンバッグを手にして、誰もいない公衆トイレを後にした。
トイレから出てすぐそばにある建物は、小さな児童館だ。もう夜の8時は過ぎているというのに、仮装した子どもたちが楽しそうにはしゃいでいる。
そう。今夜は子どもたちが主役のハロウィンパーティー。手作りのジャック・オ・ランタンがたくさん飾ってあり、ヴァンパイアやミイラ男、ちびっ子魔女に仮装した子どもたちがわいわいと祭りを楽しんでいる。
「わああ、魔女さんだ!」
「かわいいねー! わたしも魔女さんになりたかったなぁー!」
帽子を目深にかぶった魔女姿の優希が現れると、小さい女の子たちが色めき立った。やはり女の子は、小さくてもオンナなのだ。
「嬉しいなぁ、ありがとー!」
しかし、優希が声を出した瞬間、女の子たちは不思議そうな表情に変わった。優希のことを見た目通り、女性だと思っていたのだろう。友達同士で「あれ?」と首を傾げている。
そんな様子を気にも留めず、優希は目的の人物を探す。歩くと太もものあたりがすーすーして、何と無く落ち着かないけれど、この衣装を選んで良かった。
この姿なら、あの人だって本気になってくれるだろうから。
風で帽子が飛ばないように押さえながら、優希はキョロキョロと当たりを見回した。
あの人は背が高いから、きっとすぐ見つかると思っていたのに。いくら探しても見つからない。
そこでふと、ひと気のない児童館の方に目をやった。もしかしたら、中にいるのかもしれない。
ちょうどいい、少し肌寒くなってきたところだ。優希は出店が並んでいる児童館の表ではなく、児童館の中を探すことにした。
建物の中は外の喧騒とは正反対に、とても静かだった。それに暖かい。優希は「ふう」と小さくため息をつくと、早速人探しを再開した。
「もしかして、まだ仕事してるのかな」
そう思い、入ってすぐ、右手にある事務室をちらりと覗けば、思ったよりも早くあの人が見つかった。外のハロウィンパーティーなんてまるで興味がないかのように、真剣にパソコンに向かって何かを打ち込んでいる。
こんなに楽しい夜だというのに、どこまでも真面目な人だ。
がっしりした体格でちょこちょことキーボードを叩く姿は、ちょっとだけ面白かった。
「パパ!」
呼びかけると、その人はすごく驚いた顔で口をぱくぱくさせていた。
探していたのはこの人。優希の実の父親である、橘誠一郎(タチバナ・セイイチロウ)だった。
「優希……!? な、なんて格好してるんだ!」
「だって今日はハロウィンでしょ? 僕もパーティーに混ざりたくって、来ちゃった」
父親の誠一郎はこの児童館の職員だ。真面目で、優しくて、子どもたちからも好かれている、理想の父。
そして、優希の恋人でもある、愛しい人。
「だからって、なんでそんな……魔女の仮装なんて……」
「パパのために決まってるでしょ。どうかな、似合ってる?」
ワンピースの裾を掴んで、ちらりと太ももを見せつける。縞模様のニーソックスとの境界、絶対領域が絶妙なバランスで、誠一郎は思わず息子の姿に見入ってしまった。
「……優希、やめなさい。もし人に見られでもしたら……」
「人なんていないけど。でも、そんなに人目が気になるなら、僕、いい場所知ってるよ。二人きりになれる、とっておきの場所」
キーボードの上で固まっていた大きな手に指を絡ませる。ゆっくりと、熱のこもった手で誠一郎の緊張をほぐしていった。
だがそれは逆効果で、誠一郎はますます硬直してしまった。いつまでたっても、実の息子とこういう雰囲気になるのが苦手らしい。
くすっと笑い、優希は悪戯をするようにその手を持ち上げて、自分の胸へピタリと当てる。
「僕の胸……ドキドキしてるの、わかる……?」
誠一郎の手は震えていた。優希の平らな胸に触れて、緊張がピークに達したのだろう。慌てて優希の胸から手を離し、「バカなことをするんじゃない!」と声を荒げた。
「っ……!」
誠一郎はいつもこうだ。優希が欲しいものを、簡単には与えてくれない。キスだって、セックスだって、愛の言葉だって。真面目すぎるから、こういうことに関してはとても厳格なのだ。
そのくせ、一度タガが外れると堰を切ったように欲望に忠実になる。
そんなところは嫌いじゃないし、むしろ好きなのだけれど……たまには誠一郎の方から求めて欲しい。今日だって、せっかく可愛くしてきたんだから、褒めて欲しかった。
「もしかして、怒ったの……?」
誠一郎は黙り込んで顔も見てくれない。胸がチクチクと痛んだ。こんな気持ちになりたくて仮装してきたわけじゃない。
たった一言、「可愛いじゃないか」とか「似合ってる」とか、笑顔でそう言ってもらいたかった。
だって、今日はハロウィンなんだから。
本来の祭りの趣旨とは違うかもしれないけれど、この夜を特別なものにしたくて、こんな格好で誠一郎に会いにきたのだ。
だって、誠一郎のことがすごくすごく、好きだから。
その気持ちを、少しでもいいからわかって欲しかった。
「パパ……」
大きな瞳に涙が浮かぶ。泣いたってどうしようもないのに……。そう思った、その時だ。ガタンと音を立てて、勢いよく椅子から立ち上がった誠一郎は、そのまま優希の手を掴んでズカズカと歩き始めた。あまりに強く握られたせいで、持っていたバッグを落としてしまったが、そんなことは気にしていられなかった。
「パパ!? どうしたの!? 痛いよ、手っ……!」
「……お前だからなッ」
帽子がずれて、誠一郎の姿がよく見えない。けれど、声の感じから誠一郎はひどく切羽詰まっていることがわかった。
「なに、言ってるの? どこ行くのっ……パパ!?」
どんどん早足で進むから、途中で帽子を廊下に落としてしまった。優希は「あっ」と小さな声をあげたが、誠一郎は優希の手を引っ張って強引に突き進む。
連れてこられたのは、『研修室1』と書かれた、一番奥の部屋だった。
誠一郎は後ろのポケットから鍵束を取り出し、無機質な部屋の扉を開く。
その中へ優希を引き込むと、今度は後ろ手に鍵のつまみを回す音が響いた。
この場所、この状況。どういう意味か理解できないわけがなかった。
「煽ったのはお前だからな……今夜ばかりは、いい父親の顔なんてしていられないぞ」
部屋の中央にはグレーの長机が円になるように置かれている。その一つに押さえ込まれると、いきなり唇を奪われた。
「んんっ……ん、う……!」
熱くて激しい。唇だけじゃない。舌まで燃えるような熱を持っていて、身も心もキャンディのように蕩けてしまいそうになった。
「んっ……パパ…ぁ、っ」
「優希……ッ」
長く深い口づけが終わると、誠一郎の手がスカートの中へ滑り込んできた。大きな手に撫でられるとそれだけでひどく感じてしまって、優希ははしたない自分を恥じた。
羞恥心でいっぱいになるが、それでももっと触れて欲しくなって誠一郎の首に縋り付いた。
「ねぇ……もっとすごいイタズラ、してくれる……?」
「変なことを言うな。イタズラをするのは子どもの方だろう?」
「んん……でも今、すっごく甘くて美味しいお菓子をもらっちゃったし……僕はイタズラするより、される方がスキだから」
硬い机に寝かされているから、背中が痛い。けれど優希はそんなこと関係ないくらい、興奮していた。
外では小さな子どもたちがわいわいとハロウィンパーティーを楽しんでいる。大勢の親や児童館の職員たちが見守る中で。
鍵もかけているし、誰にも見つかりはしないだろうけれど、それでもふたりの心臓は高鳴った。健全な子ども達のためのパーティーの中、自分たちはこんな淫らなことに耽っているなんて。しかも、父と子という禁じられた関係で。
「あっ……あんッ……!」
スカートの中の手が、優希の中心へ触れた。股間を覆っているのは黒いレースの女性用下着だ。サイドに赤いリボンが編み込んであって、優希はそこに一目惚れして買った。流石に実店舗で買い物をするのは恥ずかしかったから、インターネットで探して見つけたのだ。
すべては、誠一郎に楽しんでもらうために。
その思惑は、どうやら成功したみたいだった。
「し、下着まで女物を身につけているのか……」
驚いた誠一郎は、思わずスカートを捲り上げたまま、まじまじとそこを見つめてしまった。勃ちあがり始めた肉茎が布地を持ち上げている。細身の優希だが、流石に女性用は小さかったようで、少し肌に食い込んでいた。
「可愛い……? この下着、パパのために選んだんだよ」
足を大きく広げて、優希はその下着を誠一郎に見せつけた。こんなに大胆になれるのは、今夜が特別な夜だからだ。
まるで魔法にかかったような、高揚した気分に流されるまま、優希は父の前で痴態を晒す。
「っ……なんて格好を……!」
「嬉しいくせに。……今夜くらい、素直になってよ」
優希の方からキスを仕掛けて、愛撫の続きをねだる。小さな下着を脱ぎ捨てて、開いた脚を絡ませると、誠一郎はまた愛撫の手を動かし始めた。
「優希……優希ッ……」
「ん、っ……パパ、こっちも、触って……」
仮装用のワンピースは生地が薄く、優希の乳首の先端が尖っているのがすぐにわかった。ぷっくりとした突起が二つ、オレンジ色の布を押し上げている。
中心への愛撫に集中していた誠一郎は、優希がねだる通り乳首へと手を伸ばした。
「ここか?」
熱い吐息混じりの声と同時に、布の上からキュッと両方の乳首をつままれた。その瞬間、びりっとした刺激が全身を駆け巡る。
「んあぅッ……!」
普段以上に感じてしまうのは、いつもと違う仮装のせいか。それとも『父の職場』という特殊なシチュエーションのせいだろうか。どちらにしろ、優希は父親の手によって与えられる甘い快楽に酔わされていた。
「んっ、あっ……ふ、ああ……ッ」
おかしい。こんなに感じてしまうなんてどうかしている。
父の熱い手が敏感な肌を撫でるたび、優希は震え上がるほどの快楽を感じていた。乳首を、肉茎を、そして太ももの内側を愛撫されて、幸せで胸がいっぱいだった。
「あんっ…あ、ああ、パパ……パパぁ……!」
「気持ちいいのか? 俺に触られて、こんなに蜜を溢れさせて」
「んっ、きも、ち、い……! おっ……おかしくなっちゃいそう…!」
誠一郎の指が、くちゅくちゅ、ねちねちと音を立てて肉茎の先端を擦り上げる。弱いところを集中的に責められて、つま先が勝手にビクビクと跳ねてしまう。
先端の小さな割れ目からはとろとろ透明の粘液がとめどなく溢れている。形の良い肉茎は腹につきそうなほど反り返っており、整えられた恥毛は自身の粘液で濡れていた。
「……おかしくなっていい。もっともっと……乱れてくれ」
言うや否や、誠一郎は優希の唇に噛みつくようなキスを与えた。熔けてしまいそうな激しいキスと同時に、カチャカチャと金属音が響く。誠一郎が性急にベルトを外そうとしている音だと気づくと、腰の奥がズクンと疼いた。ジッパーが下され、下着を持ち上げる肉棒を目にすると、もう我慢できなくなった。
「……パパのここ、すごい硬くなってる……」
言いながら、悦楽に震える指先で誠一郎の剛直に触れる。熱い猛りは鞘に収まりたくて仕方がない様子だ。
「ああ…早くお前の中に入りたがってるんだ。だから、お前のここ……解してやらないとな」
「んっ……」
優希の先走りで濡れた指で、秘めた窄まりをくるりと撫でられる。優しく撫でられていると、勝手にピクピクと蕾が震えてしまい、頰が紅潮した。
――見られてる。パパに、こんな恥ずかしいところを……。
そう思っただけで心臓が爆発してしまいそうだった。明るい蛍光灯の下、欲しがってヒクつく蕾を見られている。
「あ…あっ…」
「可愛いな。優希のここはいつだって素直だ。物欲しそうに口をパクパクさせて……そんなに俺のが欲しいのか?」
欲しいに決まっている。そのために、こんな格好で、こんな場所まで押しかけたのだ。
「ほ…しい……パパの、おっきいの、欲しいよ……」
甘えた声でおねだりをすると、濡れた蕾に指が侵入してきた。節くれた指がぐるぐると中を掻き回す。ゆっくりしたスピードだが、浅い部分を刺激されて優希は乱れる。手の甲で口元を押さえるが、蕩けた声は堪えきれなかった。
「あ、んんッ……はぅ……っ!」
「じっくり解してやる。お前に負担をかけたくないんだ」
「ああぁッ――……!!」
二本目の指が挿入された。中指と人差し指の二本が、濡れた音を立てて蕾を無理やり開かせる。たまらなくもどかしい快感が優希を襲った。
「はぁ、んッ……! や、ぁ……あ!」
濡れた音が耳まで犯す。優希の中を蹂躙する誠一郎の指に力が込められるのが分かった。浅い場所から奥まったところへと隘路をこじ開けられる。
もう、限界だった。
「んぅ、んっ…うう……ぁあ…」
優希は腰をくねらせて、指がもっと奥まで入ってくるように導く。我が子のそんな淫らな姿は、誠一郎を一気に興奮させた。
「もう、いいか……?」
「ッ…来て…! もう大丈夫、だか、らぁ……」
震える声は恐怖のせいではない。昂ぶった感情がおさえられず、全身が震えてしまうのだ。
欲しくて欲しくて、もう我慢できない――。
「……わかった。挿れるぞ」
血の繋がった親と子で、交わりを持つ。なんて罪深いのだろう。
だが、二人で堕ちていこうと決めたのだ。二人はもう、迷わない。
この交わりは、心から愛し合っている証なのだ。
「あぁ――……ッ!!」
指を引き抜かれ、かわりに熱い剛直が熟れて開花を待っている蕾にあてがわれる。それを待ち望んでいた優希は、歓喜のために涙を零した。
「愛してる……優希」
その言葉と同時に、優希の中に誠一郎の欲望が突き立てられた。
「ひぁああん!!」
甘く淫らな嬌声が無機質な部屋に響く。外にまで漏れ聞こえそうなほど高い声を塞ぐように、誠一郎は優希にくちづけをした。燃え上がるような激しいくちづけだった。舌が絡みあい、唾液が口の端から溢れていく。夢中になり、呼吸も忘れて二人は求め合う。やがて誠一郎の方から唇を離すと、瞳を潤ませ、息を荒くする優希が目に映った。
「いやらしい魔女だ……キスをしただけでナカがうねり始めたぞ」
言いながら、誠一郎はグッと腰に力を入れる。先端だけでなく、すべてを優希の中へと沈めるように突き進んできた。
「ああっ…あぁん、っ、おっきいの、くるっ……!!」
狭い道が押し拡げられて、誠一郎の形に作り変えられていく。優希の媚肉は誠一郎をみっちりと包み込んで離さなかった。
「可愛い優希……っ、もっと深くまで…愛してやる……」
「あいしてっ…! もっといっぱい……パパで満たして…ッ…!!」
「ああ、わかってる。お前の全部をもらうぞ……っ」
勢いをつけて誠一郎は腰を叩きつけた。深いところまで穿たれた優希は、壊れたような声をあげ、背中を反らして衝撃に耐えた。そこからは、獣のような激しさが優希を待っていた。
「あっ、ひッ……ああ、ああっ、あああ……!!」
言葉をなくし、止むことの無い抽送に優希は乱れた。父の欲望の熱が直に伝わってくる。奥の奥まで犯されて、これ以上ない幸福感を覚えた。
「んんっ、あ、ぁうッ、あッ……ぁあんッ…ん!」
太く張り出した部分が優希の弱いところを擦り上げ、抉っていく。その度に脚が勝手にビクビクと跳ねてしまう。あまりに強い快感に、涙が止まらなかった。
――愛されている。誠一郎の愛で満たされている。
これ以上ない快楽と幸せに包まれて、もうどうにかなってしまいそうだった。
肌と肌がぶつかり合い、パンッ、パンッと音が鳴る。力強い責めに、優希は止め処なく蜜を溢れさせた。
「うれ…し……こんなに、パパに……愛されてっ…」
「俺もだ。こんな、幸せな気分、知らなかった……ッ」
ギッ、ギッと机が軋むが、そんなことは気にもならなかった。ただ愛している。それだけが二人を突き動かしていた。
「あっ…だめ…イくっ……! イっちゃう……!!」
「まだ駄目だ。我慢、できるな?」
「あぁんッ、無理っ、できない…ッ…ぁああ!」
込み上げてくる熱流を、肉茎の根元を握りしめるという荒技で止められて、優希は肩を震わせた。絶頂がすぐそこに迫っているのに、誠一郎はそれを戒める。口元に薄く笑みを浮かべている様子から、意地悪をされているのだと優希は悟った。
「やっ、イジワルしないでぇッ……!」
「じゃあ、おねだりしてみせるんだ。誰に犯されて、どんな風にイくのか言ってみろ」
頭の中が悦楽のためにぐちゃぐちゃになって、何も考えられない。優希は羞恥も何も感じる暇なく、言われた通りの言葉を口にした。
「っ……パパの、太くて硬いので犯されて、ッ……めちゃくちゃになって、イっちゃう……! いっぱい、えっちな蜜が出ちゃうよぉっ……!!」
「……上出来だ」
グチュッグチュッと激しくピストンされ、我慢の限界を迎えた時。誠一郎は手を離して優希に射精の許しを出した。
その瞬間、優希は甲高い嬌声を上げて滾る淫らな蜜を噴き上げた。
「んッ、あああッ!! はぁっ、あ、ッ……とまっ、ん、ないっ……!! とまんないよぉ…!!」
「俺も我慢の限界だ…全部、お前の中に出すぞ……!」
受け止めろと言わんばかりに、誠一郎は一層強く腰を叩きつけた。悦楽に熱された奔流が、優希の中へ注ぎ込まれる。剛直が脈打ち、優希の最奥で爆発したのだ。
「すごっ……すご、い……っ! あったかい……パパの、ぜんぶ……ちょうだいッ…!!」
「優希…優希っ……!」
きつく抱きしめ合い、二人は罪と快楽の渦へ堕ちていった。
***
「はぁっ……はぁッ……っ」
たっぷりと欲望を注ぎ込まれた優希は、肩で息をしながらぼんやりと宙空を見つめていた。激しくて、熱くて、幸福な交わりが終わってしまった。寂しさからか、また眦から水滴がこぼれ落ちる。
「泣くな。目が腫れるぞ」
「だっ…て……」
「……そんなに可愛い顔で泣かれたら、もっといじめたくなるだろ」
繋がりあったまま、誠一郎は優希の頰に唇を押し付けた。キスをされた瞬間、剛直を咥え込んだ優希の秘所がぎゅっと締まり、誠一郎を困らせた。このままではまた、劣情を催してしまう。
「……抜くぞ、優希」
「やっ、んあ……まだ、ぁっ…」
ずるりと太いものが抜けていく。まだ足りない、まだ中にいて欲しい――。大きな手で髪を撫でられながら、優希は切ない声をあげた。その声に応じるように、慈しむようなキスが降り注ぐ。長大な肉棒が抜けて、誠一郎が吐き出した迸りがとろりと溢れ出てしまった。
「ん、くっ……うぅ…」
勿体無い――せっかく誠一郎がくれた愛の証をこぼしてしまうなんて。優希は必死にその証をこぼすまいと、緩んだ後孔を締めようと力を入れた。しかし、激しいピストンで痺れたそこは言うことをきかず、はしたなく口を開いたまま白濁を垂れ流してしまった。
「……いやらしい眺めだな」
誠一郎はいつの間にか衣服をきちんと正していた。正反対に、乱れた格好をしている優希は途端に恥ずかしくなって悲鳴をあげる。
「やだ、ぁッ…! 見ないでっ……!」
「そんなことを言っても、蛍光灯の真下だから明るくてよく見えるぞ。……ああ、いっぱい出したんだな。魔女の衣装がドロドロだ」
「……あッ…!!」
うろたえる優希の姿に、誠一郎は笑いを漏らしながら、床に落ちていた小さな下着を拾い上げた。
「ちょっと待っててくれ。タオルを持ってくる」
下着を渡され、優希は上体を起こして自身の姿を確認する。胸までたくし上げたワンピースは自分の吐き出した白い粘液で汚れ、そのままでは外に出られないほどになっていた。
けれど、まだ一人になりたくなかった。少しの間だとしても、こんな冷たい部屋にひとりぼっちなんて耐えられない。
そんな思いに突き動かされて、優希は部屋を出ようとする父を追おうとした。
「待って、パパ……っ、あ…!」
だが、気持ちだけが逸って足腰が立たず、床に崩れ落ちてしまった。異変に気づいた誠一郎はすぐに優希のもとへ駆け寄り、抱き起こす。膝を打った優希は痛みに顔をしかめていた。
「まったく。無理はするんじゃない」
「だって……一人になるのがいやだったんだもん……」
「仕方のない子だな。じゃあ、これで少しの間だけ待っていてくれ」
急に後頭部を捕らえられたかと思うと、唐突に貪るような口づけが始まった。舌を絡め取られ、吸い付かれ、激しさのあまり意識が遠のいてしまいそうだ。呼吸が苦しくても逃げることはできない。次第に頭の中が甘く痺れてくる。
「んんぅっ……ふっ、う……っ」
「――愛してるよ、優希。言葉では言い尽くせないほど、お前を愛してる」
唇が離れると、今まで聞いたこともないような熱っぽい声で囁かれた。嬉しくて、これ以上ないほど幸せで、優希はたまらず誠一郎に抱きついた。
「僕も……! 僕も、パパを愛してる……!!」
誠一郎の逞しい腕が優希の華奢な身体を受け止める。二人はしばしの間、戯れのようなキスを繰り返し、永遠のような幸福な時間を共にした。
***
「これでよしっ、と」
それからしばらくして、優希は事務室に置き去りにしていたボストンバッグとタオルを持ってきてもらい、身支度を整えた。体液で汚れてしまった魔女の衣装は丸めてバッグの中に詰め込んで、着替えの最中ずっと背中を向けていた父に声を掛ける。
「パパ、お待たせ。もうこっち見ていいよ?」
「ん……ああ、わかった」
散々優希の恥ずかしい姿を見ていたくせに、着替えは見られないなんて変わっている。そんなことを思いながら優希はバッグを肩にかけた。
身体はまだ火照っている。まだまだ足りなくて、もどかしいくらいだ。
あんなに激しく愛されたのに、なんて欲張りなんだろう――。
優希は父の後ろをついて歩きながら俯いた。こんな風に思っているのが自分だけだったら……そう考えると、切なくなってしまった。
誠一郎はキリッとした姿で歩いていく。一人の職員に声を掛けると、遊びに来た息子の体調が優れないので早退する旨を淡々と伝えている。
「迷惑をかけて申し訳ありません」
「いやいや、君にはいつも頑張ってもらっているから。息子さん、お大事にね」
優希は人の良さそうな職員にぺこりとお辞儀をして、児童館を後にした。
外に出ると、テントを片付けたり、ゴミをまとめる職員たちが声を掛け合って作業を進めていた。ハロウィンイベントは終わったのだろう。あれだけ大勢いた子どもたちの姿はない。
「子どもたち、みんな帰っちゃったんだね」
「時間が時間だからな」
「あんなに騒がしかったのが嘘みたい」
職員専用の駐車場は児童館から少し離れた場所にある。夜風に当たりながら歩いていると、さっきまで愛し合っていた熱が冷めていくような気がした。
誠一郎が鞄から車のキーを取り出すと、ピピッと音がして見慣れた車のライトが光る。
「すごく、幸せだったな……今年のハロウィン」
助手席に乗り込んで噛みしめるように呟くと、突然誠一郎が優希の身体を抱き寄せ、唇を重ねてきた。
「――っ……んッ…!」
それは一瞬のことだった。
触れるだけのキスに優希は驚き、父の顔を見上げる。
「まだ終わっていないぞ。大人のハロウィンは、これからだろう?」
冗談っぽく笑う父が愛おしくて、今度は優希から唇を触れ合わせた。
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