夕暮れ時の雑踏にとけて

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「私?……美大に通いながらアルバイトしてるよ」 「……そう。凄いね」 酸素を求める金魚の様に唇をぱくぱくさせて漸く出した声は震えていなかっただろうか。 亜唯のしまった、とでも言いたげな表情を横目に俯いた。 私とは全く違う道へと進んだ亜唯。 私がかつて歩もうとしていた道を、彼女一人で歩んでいた。 憧れていた、道。 小さくたどたどしい声で返事した後、ふと都会に来てからの私の一ヶ月を顧みる。 ちょっとでも早くと引越しし、慌てて住民票を都会の此処に移し、荷解きもする暇も無いまま、真新しいリクルートスーツに身を包んで右も左も分からないまま都会を彷徨い面接を受けた。不採用通知のメールが入った時はその度に一人ぼっちの空っぽの部屋で蹲った。やっと採用され一ヶ月程歩んだ。毎日満員電車に乗り人混みに紛れ込み、ふらふらと会社へ向かっていた。めいいっぱい勇気を出して職場の人に分からない所を教えてもらったりした。覚えが悪い私は何度も叱られた。 こんな筈じゃ無かった。でも私から逃した。 「ごめんね」 頭の中でどう言おうかと逡巡し、零した言葉は謝罪だった。 「こちらこそ、ごめんなさい。あの時、茉衣に酷い事言ってしまって。茉衣は何にも悪くないのに」 「ち、違う!亜唯は悪くない!亜唯が私と一緒に、美大に行こうって言っていたのに、私の不注意で怪我して、私が勝手に違う道へ進んだから!私のせいなの」 「あれは茉衣のせいじゃないでしょ!?あれは茉衣の両親が怪我させたの」 その言葉が重くのしかかった。
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