ぁんっ!

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結局結論は出なかったし、これと言った解決法もないまま僕たちは鶴城神社に向かった。相変わらず、上野さんの運転は心地いい。 神社までのこの道のりも緑に囲まれていて気持ちがいい。窓を開けようとは思わないが・・・。猛暑厳しい外の熱風をよく冷えた車内に入れたくはない。 明日から始まる大祭に向けて鶴城さんたちはそれぞれにとても大変な仕事をこなさなければならない。僕はそのお手伝いをすることは出来ない。 神職でもない僕に出来る事は何もない、ただ疲れて帰ってきた彼を休ませてあげる事しか出来ない。 分刻みのスケジュール表を見た時に、何もできない自分の無力さが情けなくなった。婚約者として表に立つことになるのに、肝心な所では何もできない。 鶴城さんはそんな事は気にしなくていいと言ってくれるが、やっぱりポツンと置いて行かれてしまっている様で、寂しさは尋常ではない。 出来ない事ばかりの無力さが僕を纏ってしまいそうになると必ず誰かが手を差し伸べてくれる。こんな環境を真央は求めていたのかもしれない。 あれから彼女たちに会う事はなかったが、最後に一度会ってきちんと話をすべきなんじゃないだろうかと思っている。余計に拗れてもっと面倒な事にならないとも言い切れないが、このまま終わっていくのはなんだかな・・・。 「愛斗様、真央さんの事ですけど・・・。」 僕の思考はきっとどこからか電波の様なものが漏れ出て、この人たちにはそれを察知できる便利な機械でもあるのだろう。としか思えない程いつもばっちりのタイミングで話が放り込まれる。一度大きな病院で精密検査でも受けたい気分になってしまう、なんならどこかにチップが埋め込まれているだろう。妙な自信さえ湧いてくる。 「小春さん、真央の事何か聞いたんですか?」 助手席から顔だけをこちらに向けて、ちょっと納得がないかない顔で僕に話しかけてくる彼女の様子で、大体なんとなくわかった。 「―――はい、やっぱりこれといった証拠が集まらないらしくて大きな罪には  問えないらしいです。彼女にターゲットにされた子達は皆、もう思い出した  くない、の一点張りで相当心に傷を負っているらしいです。」 深く、深く、抉られて、いつまでも鮮血を流し続ける様な地獄のような傷を、真央は今までどれだけの人に与えてきたんだろうか。効果的に、しかも持続力の強い言葉の呪縛と共に、肉体的にも何かしらの苦痛を織り交ぜて・・・。 「玲子さんの方は、ストーカー行為や愛斗様への拉致あっせんなどでお咎めな  しとはいきませんが、真央さんは普通に帰って来るでしょう。マンションも  まだ玲子さんの名義になっていますし、分譲ですから引っ越すなんて話は、  全く聞こえてきません。」 玲子さんもなんだかんだと直ぐに帰って来るだろうことは予想している。あのおじさんに優秀な弁護士を雇ってもらって、のらりくらりとかわして、するするといつもの生活に戻る。玲子さんのいつものやり方で、いつものスタイルだ ただただ綺麗で華やかな印象だけが残りがちだが、あの人はそんな単純な構造で出来ている人間ではない。これから先も彼女が諦めない限り何度でも父に再婚を迫るのではないかと思っている。 「じゃぁ、父はまた玲子さんに付きまとわれたりするんですか?」 「それはないですよ、そんな事は出来ないようにします。大丈夫ですよ。  綾子さまが本気になられたのですからいくら玲子さんでも無理です。」 小春さんはちょっと悪い顔で笑うと、ちらりと鶴城さんの方を見る。つられて僕もそっちへ視線を移すと、窓の外を眺めながら顎に手を置きぼんやりとして話を聞いていない様なそぶりを見せながらもしっかりと聞いていた彼と目が合う。
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