ぁんっ!

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「愛斗の所為で彼女たちがああなった訳じゃないし。きっと根っこがそういう  性格だったんだから・・・。環境、育ち方、いろいろあってああなったんだ  誰の所為でもないし、ある意味、誰にも教えてもらえなかった事は不幸だね  誰かが間違っていると、それは良くない事だと教えてくれていたなら、  彼女たちのあの歪んだ感情は生まれなかったかもしれないね。」 ―――傍に居てくれる誰かの存在1つでこんなにも人というのは変わる。 僕は身をもってそれを知っているから、鶴城さんの言う言葉はストンと腹の奥におさまっていった。 真央の父親が誰かなんてことは、誰も知らない。玲子さんしか知らない事。 真央自身もきっと知らないのだろう、そしてその事を母親に聞く事は絶対にしない。まるでいつもそんな事は気にしていないという様なそぶりすらしている 僕だったら・・・僕ならそんなことできない。母親に嫌な記憶を蘇らせてしまうと分かっていても、きっと根掘り葉掘り聞いてしまう。知る事も僕の権利だ!だとかなんとか言いながら・・・。 「真央は・・・真央は変わるんでしょうか?出会う人で自分の犯してきた過ち  に気が付く時が来るんでしょうか。」 変わるときが来た時、自分の進んできた道をふと振り返ったら、受け止めたくない現実が待ってるとしたら・・・その時に誰か側で支えてくれて真央の全てを受け止めてくれる人が居てくれたならいいなと思う。酷い事をしてきた事は事実だけども、だからと言って地の底を這いまわるような苦しみは受けて欲しくない。一度は家族になったから?そういう訳ではなくて、真央の育ってきた環境があまりにも可哀想だと思うから。 「まぁ・・・僕がこんな事を心配している事こそが真央にとって腹が立つん  でしょうけどね。」 薄っすらと笑う僕の頬を大きくて優しい手がすっと撫でてくれた。 「同情でもなんでも、こうやって気にかけてもらえる事が幸せなんだと気が付  けたら、彼女もきっと何かがわかって変わるんじゃないかな?」 余りにも優しく撫でてくれるものだから、僕は思わず目を細めてしまう。 甘くて優しい声が僕の想いをふんわりと受け止めてくれて、誰にも気にしてもらえない事の寂しさを知っている僕はなるだけ知らんふりをしたくない。 とっても苦手な相手なんだけど、でも気にかけてしまう、こんなバカみたいな行為を鶴城さんはそれでいいと笑って優しく受け止めてくれる。 「―――そう・・・ですね。そうだと・・・いいなぁ・・・。」 鶴城さんはにこりと微笑むと言葉にはせず、ただ僕の頬を優しく撫でてくれていた。甘くて優しい時間が後部座席を包んでいると、助手席からスマホのシャッター音が聞こえてきて僕の中のほんのりとした雰囲気を一気にぶち壊していった・・・。 「小春・・・たまには空気を読みなさい。」 上野さんの申し訳なさそうな声が小春さんを咎めるが、彼女は何も気にしていない。流石小春さんだと思い、僕たちの口からは笑いが漏れ出てしまった。 ずっと重い空気だった車内もなんとなく軽くなったような気がする。 そもそもこんな空気にしたのは僕なのだけども、それでもこういう僕の面倒くさい性格を理解してくれるこの人たちに甘えてしまう。 「あー・・・もう見えて来ちゃったよ。あぁ・・・やだなぁ。」 鶴城さんの心から”イヤだ”と伝わってくる言葉の先にはあの長い階段が見えてきた。
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